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「そういえば昨日、物々交換しましたね」
店員さんはおすすめのキャラメルをうまく扱えないようで、太い腕でなんとか規定量掬いとろうと腐心していた。待たせていると焦っているみたいで、そうやってお喋りがはじまる。できた店員さんだ。
俺は微笑んで頷く。
「すみませんでした。ありがとうございます」
「いいんですよ。これほんとに、本物みたいに綺麗だから、試食くらいなら。よし、できました」
店員さんからジェラートをうけとった。彼は、今日も右手につけているオパールの指環を、軽く手を掲げて示す。「なにでできてるんですか?」
「えーと、含水ケイ素かな。水素を含んだケイ素だと思います」
「へえ。洗っても平気かな。俺アレルギーでゴム手できなくて、消毒してるんすけど、傷みそうで」
「洗うのは平気だったかもしれません。でも、あんまり乱暴に扱わないほうがいいと思います」
あれ、ケイ酸だった?
店員さんはふーんと云いながら指環を見る。行列がまだ途切れていないので、俺はお辞儀してその場から外れようとした。
が、妹に、買いもの袋を持ったほうの腕を掴まれる。「お兄ちゃん、どういうこと?」
「え?」
「物々交換ってなに? あの指環、三十万じゃきかないよ。別の宝石とかえたの?」
そんなに価値があるのか。あっちだと、ひと盛り銀貨1枚が相場だったから、あれひとつじゃパン一個とも交換できない。
妹の言葉に一番驚いたのは、店員さんだった。えっ、と云って、五秒くらいかたまってから、俺を見る。「え、あの、え? さっき云ってたのっすよね、本物のオパールじゃなく?」
「オパールの主な成分は含水ケイ素です」
妹がぴしゃりと云い、それから行列を思い出したみたいで、俺の腕をひっぱって列の先頭を外れた。店員さんが目をまんまるにして俺達を見ている。妹は会釈する。
「営業の邪魔してごめんなさい。それじゃ」
そのまま、ひっぱられた。バイクをのりまわしてると、腕力がつくのかもしれない。
キッチンカーからかなり離れた、せまい路地の入り口みたいなところで、妹は停まった。ジェラートが溶けそうで、俺は手に持ったそれを見ている。
「お兄ちゃん」
「なあ、先にジェラート食べよう」
妹は抗弁しかけたけれど、自分が持っているジェラートも溶けそうだと気付いて、渋々頷いた。
ジェラートうまい。キャラメル、おすすめだけあって、香ばしくて、ほんのちょっぴりだけお塩がはいってて、絶品だ。ほかの味も全部おいしかった。
コーンの最後の一口まで食べてしまうと、俺達は包装紙を折りたたんで、それぞれポケットへ仕舞いこんだ。




