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「またぼーっとしてる」
「ああ、すまん」
「別に怒ってないよ」妹はそう云いながら、俺の手の甲をつねった。「お土産、ちゃんと覚えてたみたいだし」
にこっとされた。妹は今朝、サローちゃんのコンディショナーを試したみたいで、機嫌がいい。髪が自分の思いどおりになれば、人生の苦労の半分はなくなる、とまで云っていた妹である。ヘアケア用品ジプシー歴は十年近いが、正解はサローちゃんだった。
サローちゃんや、レントで知り合ったひと達、それにダストくんやハーバラムさんは、どうしているかな。俺が悪しき魂だった所為で、なにか迷惑になっていなかったらいい。それから、俺のことをさがさないでいてくれたらいいな。手間をとらせたくない。
ツァリアスさんが、セロベルさんになにか、説明してくれているかもしれない。そうだったらいい。
みんなが、俺みたいにひっかきまわすやつから解放されて、平穏に暮らしているといいな。
順番がまわってきた。妹はショーケースを覗き込み、ジェラートを物色している。店員さんは昨日と同じで、俺に気付いたらしく目がにっこり笑った。
「昨日はどうも」
「どうも」
「ああ、君の彼氏だったんだ」
「兄です」
妹がぱっと顔を上げて云い、再びショーケースに目が釘付けになる。「お兄ちゃん、ごめん、今日はすいかない」
「ありゃりゃ。ほかのおすすめってなに?」
「えーとね、ヨーグルトと、ピスタチオと、桃とね……」
妹と同じようにショーケースを見る。ジェラートは十種類くらいあって、昨日とは顔ぶれが違った。毎日つくって、別のものを売っているらしい。
頭上から店員さんの声がした。「キャラメル、おいしいっすよ」
サッディレくんとは、似ているけれど違う喋りかただ。それでもやっぱり、懐かしさを感じる。
「じゃあ俺、キャラメルと桃とヨーグルト、コーンで、大盛りでお願いします」
「じゃあわたし、ピスタチオと紅茶と、ヴァニラください。コーンで大盛りで。お兄ちゃん、一口分けてね」
「わかった。物々交換しよう」
ふざけて返す。妹は楽しそうに笑う。俺が沈み込んでいたら、妹をしょんぼりさせてしまう。妹には、そういうのは似合わない。
店員さんが、ばりばりタイプのアイスクリームコーンに、器用にジェラートを盛り付けていく。先に妹のができあがり、妹は嬉しそうにそれをうけとった。
俺はポケットからとりだした、と見せかけて、ポケットのなかで開いた収納空間からとりだしたお財布をあけ、代金をショーケースの上に置いた。お財布を戻す。ぴったりのお金を置いた、筈。




