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「とびはねて?」
「とびはねて」
「くもっぽくないな」
「ねえ」
妹がケータイをポケットに滑り込ませた。「じゃん、おいしいジェラートのお店」
わざとらしく両手で示すほうを見てみれば、昨日いちごのジェラートを試食させてもらったお店だった。
俺は苦笑いする。妹は小首を傾げた。「なに」
「いや、昨日ここで試食させてもらったんだ」
「なんだあ、お兄ちゃん知ってたん」
「試食だけだよ。お金持ってなくて」
正確には、持っていないと思い込んでいた、だ。あの時も今も、収納空間にはお財布がある。俺は買いもの帰りに異世界へとばされて、もとの世界の荷物は全部収納していたのだ。俺は現金派(必要に迫られればアプリ決済もするが、ちんぷんかんぷんなので勘弁して戴きたい)なので、お財布には常にお金がはいっている。
収納空間をつかえると思っていなかった俺は、お金は持っていないつもりだったのだ。もし収納空間をつかえると気付いていたら、三種盛りでも食べてた。
妹は変な顔をしたが、一瞬だった。俺のあいている手をひっぱって、行列に並ぶ。どうやら俺は昨日、エアポケットのような一瞬にはまりこんだらしくて、今日はジェラート屋さんには行列ができていた。すぐに、俺達の後ろにもひとが並ぶ。
廟の前で、こんなふうに順番待ちをしたことがあった。今、ミューくんはどうしてるだろう。癒しの力をよっつ持っている別の癒し手は、見付かったかな。
ミューくんの特殊能力は、多くのひとが、口に出さないまでも軽んじていた。口に出したひとも居ただろう。でも、ミューくんは、それを訂正しようとはしない。ジーナちゃんとチェスくんの為に、長生きできるように立ちまわるだろう。
ジーナちゃんがミューくんを、きっと、厄介ごとにまきこまれないようにまもっているんだろうな。ジーナちゃんは凄い子なのだ。もしかしたら、物知りのユラちゃんやサキくん、友情に厚いリッターくんやリオちゃんには、事情を説明して、助けてもらっているかも。
その輪のなかに、ほーじくんも居てほしい。俺に裏切られて傷付いたに違いないほーじくんを、みんなでなぐさめ、はげましてあげてほしい。悪いのは俺であって、ほーじくんじゃない。
封印されたのだから、みんな、俺が悪しき魂だとわかっただろう。騙されていたと怒るだろうが、俺が居なくなったからって、みんなの友情は揺るがない筈だ。あちらでは、悪しき魂は封印されてしかるべきものだし、ほーじくんがそれをしたところで咎める子もないだろう。寧ろ、よく頑張ったと、誉められる類の行動だ。




