3271
妹は俺がおじさんの密命をうけ、宝石の買い付けにインド辺りに飛んでいたと思い込んでくれた。
「インド暑かったでしょ。本場のグラブジャムンどうだった? やっぱり強烈?」
「うーん……」
翌朝、お兄ちゃんずっと外食してないでしょ、と、妹が喫茶店で朝食を食べることを提案したので、俺達はその喫茶店まで行って、カウンタ席に並んで座っていた。妹が見付けた店で、家からそんなに離れていないが、俺は一度も来たことがない。存在すら知らなかった。
ちなみに移動は、妹のバイクで、である。後ろにのせてもらった。持つべきものはバイクのりの妹だ。
グラブジャムン、あっちでも見たし、ひとつふたつくらいはもらったこともある。でもあれ、俺は苦手なのだ。ひとに拠ったらまじで死ぬのではないかと思うくらいの甘さをぶちこんでいるし、食感もあんまり好きじゃない。
まずいっすね! とも云えないので、もう結構です、みたいに云ってごまかしていたが、あれって食べると耳下腺と眉間とこめかみと咽と食道が痛くなる。しかし、インドやパキスタンの、本場のグラブジャムンは、違う味なのかもしれない。
妹は俺の渋面を見て、察してくれたらしい。くすっと笑う。
「いまいち?」
「わかってて訊くなよ。お前、缶詰のやつ食べてみろ、一遍」
「こわいからやだ」
妹はあたたかい紅茶をくいっとやる。俺と同じで、コーヒーはそこまで得意じゃないのだ。「あれって、ミキサーにかけちゃって、食パンにのっけてトースターで焼くと、ミルクジャムみたいでおいしいんだって」
「知ってる」
「教え甲斐がないなあ」
「はい、どうぞ」
喫茶店の女将さんが、俺の前に、四つ切りのトースト、ボイルした腸詰め、コーンポタージュ、キュウリとレタスとトマトのサラダ、ツナとタマネギがたっぷりはいったオムレツ、という、豪華なお膳を置いた。すぐに、妹の前にも同じものが出てくる。これで五百円らしいから、ここだけデフレーションが起こっているのかもしれない。
「はい、こちらも」女将さんは妹ににっこり笑いかける。「今日は彼氏さんと一緒? いいね」
「違いますよー、兄貴です」
妹が笑いまじりに否定し、女将さんは軽く目を瞠った。
「あらー、かっこいいお兄さんね」
かっこいい、かあ。どうにも違和感がある。そこまでかっこいいとも思っていないし、それに、普通、俺のような格好をしていたら、決してかっこいいとは云われない。可愛い、が一番上級の誉め言葉かもな。誉められることさえ、そもそもめずらしい。
けれどそれは、こちらでは通じない常識だ。あちらの普通なのだから。




