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収納空間はつかえる。魔法も。
で、それがなんになる?
少なくとも、思い出のよすがをとりだすことはできた。
お風呂を出て、寝間着がわりのシャツとずぼんを身につけた俺は、洗面所の床に這いつくばっていた。
お風呂場には妹に云ったとおり、サローちゃんのシャンプーとコンディショナーを置いてある。買い込んでいた未開封品は、後で冷蔵庫にでもつっこんでおこう。保存料をつかっているかどうかわからないから。
洗面所の床には、いろんなものを並べていた。ミューくんと交換したアクセサリ、サローちゃんの薬草図鑑、ナジさんのくれたナイフ、ダストくんの村でもらった裁縫道具、賭場の高レート部屋へ這入る為のネックレス、リェンくんの商会の櫛、サキくんがくれた大粒の宝石達、ユラちゃんの手伝いで資料を集めた時、自分用にメモした羊皮紙の切れ端、ジーナちゃんのクッキー。
みんな、劣化したりせずに、収納した時のまま出てきた。やっぱり、収納空間自体は、あちらと同じ条件でつかえる。
俺はジーナちゃんからもらったクッキーを頬張り、噛みしめた。おいしい。ヴァニラビーンズがはいっているけれど、小麦粉のいい香りもする。
「お兄ちゃん、お風呂……もうでてたん」
妹が扉を開けて、呆れたみたいにそう云った。それから、かがみこむ。「あー、お菓子食べよる! それも買ってたの? なし妹に隠すんよ」
「これはだめ」
「けち!」
「じゃあ、一枚だけやる」
クッキーを一枚渡すと、妹はにっこりしてそれをかじった。それから目をきらきらさせる。
「なん、これ、しんっけんおいしい。メーカーは?」
「それは……旅先で知り合ったひとに、もらった」
「はあ? お兄ちゃん、バックパッカーでもしてたん」
冗談ととったようで、妹はおいしそうにクッキーの残りを食べた。それから、足許に転がっている琥珀に気付いて、わっととびのく。最初にクッキーを見付けるあたり、俺達ってきょうだいだよな。
「これ買い付けてきたの?」
「は?」
「おじさん今度ジュエリーにも手え出したやん」
「え、なんで?」
「聴いてないの? この間の山、翡翠が出たんよ。ほんのちょっぴりだけど。それでおじさん、これはジュエリー関係にも手を伸ばすいい機会だって」
「ワインとか野菜とかつくったりしてるのに」
「いいやん、おじさん楽しそうだし。それでお金つくって、新しい山買うんだって。今度はジオマンシーで占ったから確実だって云ってた」
妹は琥珀をひとつ拾い上げた。「これ、おおきいなあ。こんなの、高くて売れないんじゃない?」




