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洗面所も記憶しているままだ。妹のスキンケアグッズが棚に並んでいるが、それ以外はかわらない。
俺はポケットからティッシュをとりだして、洗面台の棚へ置き、服を脱いだ。浴室へ這入る。扉も床も、久々の触り心地で、なんだか気持ちが悪い。
シャワーを手にとる。コックをひねるとお湯が出てくる。もの凄く違和感がある。
俺は体を洗い、はやくお風呂から出よう、と考えた。習慣になってしまったから、変な感じがするのがどうしようもないのだ。
シャンプーで頭を泡だらけにして、お湯ですすいだ。目にはいって痛い。それから、収納空間からサローちゃんのコンディショナーをとりだす。これをするとしないとでは大きな違いがある。
「あ?」
あれ?
俺の手のなかには、サローちゃんのコンディショナーの壜がある。一回につき、たいした量はつかわないので、俺が楽に持てるサイズでも数ヶ月保つ、勿論、それ相応のお値段だ。
それが手のなかにある。
今俺、収納空間つかった?
「水佳みかみかみかみかッ!」
「うわなに、お兄ちゃん」
「お、おれこれ、あの。ああもうッ!」
すっぱだかで廊下へとびだした俺は、うずくまって頭を抱えた。妹が心配そうにやってきて、自分の肩にかかっていたタオルを俺の頭へ被せる。「どうしたの? お兄ちゃん、なんか変」
「わけがわからん」
「なんが?」
首を傾げられた。俺は説明を試みようとしたが、どうあっても異世界云々の話は避けられず、今の俺の状態でそんな話をしたら正気を疑われると思い至った。だから、辞めた。
「いや。いや、すまん、ちょっと、勘違いしてた。ああ。ああそうや、シャンプーとコンディショナー、いいやつ、お風呂場に置いとくな」
「は? お兄ちゃんどこに持っちょったんそんなの」
「どこでもいいやろ」
云い捨てて浴室へ戻った。妹は追ってこないので、おかしなことと思いつつも飲み込んでくれたのだろう。
で、収納空間だって? これってどういうこと?
試してみた。
お湯やお水、氷なんかをとりだしてみる。普通にできる。反対に、蛇口から出てきたお湯を収納することもできた。これ以上やったらガス代も水道代もやばいなと思って辞めた。収納空間の使用条件は、あちらとかわりないようだ。
出したものを戻すこともできると確認して、俺がとりだしたのは、羽根だ。ちょっとそれを撫でて、すぐに戻した。じっと見ていたら泣くかもしれない。
収納空間がつかえるのなら、魔法もつかえるかもしれない。俺はきょろきょろして、浴室の床の隅に標的を見付けた。
結果、偸利で黒かびを撲滅することに成功した。成程ね。




