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「なにが、そうだ、なの」
カーテンをひいた室内はうすぐらい。TV画面には、妹が持ってきていた映画が流れていた。バイト先の友達にすすめられたものだそうだ。俺達兄妹はそれぞれ、ヴァニラアイスクリームの2ℓパックを膝に抱え、キャラメルポップコーンをまぜながら食べていた。
俺はポップコーンを頬張った。甘い。これも久し振りの味だな。
「ソーダアイス食べたい」
「なんだ。犯人わかったのかと思った。ちんぷんかんぷんだから」
妹は皮肉っぽく云う。極上のフランスミステリは、さすがに極上だった。極上である。これ以上はない。
「俺、ソファで寝るよ」
「いいの?」
「うん」
「じゃあ先にお風呂もらうね」
妹が洗面所に消えた。俺はまだ、アイスクリームを食べている。おいしいけれど、味気ない。どうしてだろう。あっちでたべたのはもっと味が濃くて、香りもよかった。
妹がお湯をつかっているのがガスの音でわかった。こんなのも久し振りだ。あちらでは魔法や収納空間の出番で、そういったものにこんな音は添付していない。
もの凄く変な感じだ。
うとうとしてしまって、アイスが溶けた。もったいないので、たまごをまぜてどんぶりに注ぎ、むす。
妹が洗面所から出てきた。
「なにしよんの?」
「アイス溶けちゃったから、プリンにしてる」
「食べたい」
「俺の食べかけのアイスだけど」
「お兄ちゃんそういうの気にしないくせに」
妹は頭をタオルでがしがしと拭いた。風魔法で乾かさないんだなあ、と、どうしてだか不思議に感じる。
「ドライヤ、かけたら」
「よだきー」
「髪、傷むよ」
「あ、お兄ちゃんなんか髪綺麗。シャンプーかえてないよね?」
「……旅先で、いいの見付けたんだよ」
「それお土産でよかったにい」
持って帰れたらよかったんだけどな。
俺は苦笑いで、ガスコンロの火を落とした。カラメルをつくるのは面倒だから、メープルシロップをかけよう。
「それ綺麗」
「うん」
「ほんものでしょ? お兄ちゃん、宝石に興味あった?」
「そんなに」
プリンのどんぶりはからになった。ほとんど妹が食べた。俺はソファに横になって、ブラックオパールを手に持って眺めている。妹は洗いものをしている。「暑い」
「クーラーいれる?」
「いらん。ねえ、お湯冷める前にはいってよ」
「ああ」
体を起こした。ペンダントと、同期とお揃いの指環を通した細い鎖を外して、ローテーブルへ置いた。妹が背伸びする。「それ触っていい?」
「いいよ」
「お兄ちゃん大好き」
「はいはい」
機嫌のいい妹に見送られて、俺は洗面所へ行った。




