3267
「休みなのに、でかけないの」
「この間までバイトがあったから」
どうでもいい話をしているな、と思う。
手鍋にお砂糖やお醤油をいれた。妹が、まねしてもお兄ちゃんの味にならないんだもん、とふてくされていたから、味付けは俺がすることになったのだ。
「ああ、いつもは今の時期、バイトなのに、今はしてないんだ?」
こいつはワーカホリックだ。その上、ゲーム中毒で、大食漢でもある。おじさんの旅館の仕事もしているくせに、ほかに幾つもバイトをしたり、どこかに助っ人にはいったり、いろんなことをしているので俺もすべてを把握できていない。
「もらい火で火事になってしもうて、工事中」
「え、まじで?」
「まじで。だからお休み。どうせならのーんびりゲームしようと思うて」
妹はちょっと笑い、TVの辺りを示す。そこにはゲームハードが幾つか設置されていた。成程、朝から晩までゲームをするには、実家よりもここのほうが都合がよかったのか。
妹は手鍋を大切そうに持ってキッチンへ戻る。俺は、ぬるいオレンジジュースを、ストローですすった。オレンジジュースは、あちらみたいにおいしくはない。うすくて、水っぽかった。
お麩は買い置きがあるし、たまごはさっき妹が買ってきていた。ご飯も一升、保温釜にはいっている。
俺と妹は、並んで床に座り、ぼーっとTV画面を見ている。どちらもあぐらをかき、ソファに凭れていた。ローテーブルにはかつ丼の容器と、お鍋が並び、妹の傍に保温釜がある。
「やっぱお兄ちゃんの味がおいしい」
「そうか?」
「そう」
「なあ」
「なん?」
「俺もお休みにしようかな」
妹はなにも云わず、俺の肩を軽く叩いた。
時間があまり経っていない。俺の記憶が正しければ、俺がこちらから消えていたのは、ほんの数日だったようだ。
それがどうしてなのか、わからない。単に俺の運がよかった、というのが正しいのかもしれない。タオラのように、おそらく現代から、あちらの相当過去へとばされたひとだって居る。いつどの瞬間、こちらとあちらがつながるか、まったくランダムだとしたら、それはおかしくない。
「そうだ」
京介さん、伽羅子さん、駒ちゃん、緑珠さん、オオウチ・レンさん、ハセベ・ミライさん。その六人のことを調べれば……。
調べてどうするんだよ。
俺はもう、あちらとは縁が切れた。
もう戻ることもないだろう。
あちらとこちらの時間がどうのこうのなんて、調べたって意味がない。もう関わりのない世界なんだから。




