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異世界に行ってたんだ、なんて、口が裂けても云えないな。余計に心配させる。
俺はキッチンへ行って、ニュースを見ながら冷凍庫を開けた。保存袋が目について、それをとりだす。安い時に買い込んだブロッコリーをポタージュにして、凍らせておいたものだ。これをあたためればスープは……。
二年前のものがどうしてこんなに綺麗な状態を保ってる?
冷蔵庫をあさる。お鍋にいれて火を通せば食べられるようにと自分でつくった、冷凍食品が沢山あった。後は煮るだけの角煮もどきや、自作のミックスベジタブル、旬の時期に買い込んでお砂糖とレモン汁をまぶしたいちご。冷蔵庫にも、バナナのケチャップもどきや、にら醤油、ねぎ塩、レモン塩、塩麹などがある。どれも、俺がつくったものだ。その後妹がつかっているみたいだが、そこまで減っていない。
「ねー、お兄ちゃん、かつ丼ー」
妹がソファの背に顎をのせ、抗議するみたいに云う。俺はとりだした保存容器をめちゃくちゃに戻し、妹が丁寧にラップにくるんでいる豚のばら肉を全部とりだした。これにバッターとパン粉をつけて揚げればいい。
手が震えて、豚肉同士がぶつかってかたい音をたてた。
妹が不審そうな顔をして、こちらへやってくる。「お兄ちゃん? 大丈夫?」
「だいじょうぶ」
妹は俺の右腕を、両手でつかむ。心配しているのが表情でわかる。リビングとの間にあるカウンタなのかなんなのかわからない部分に、妹が置いたと覚しいとかげやかえるの人形があるのが、とても目についた。
「やろっか?」
「いいよ座ってて」
思い出して、冷蔵庫の向かいを振り返った。そこには、大家さんからもらったカレンダーをかけてある。俺はそうした。妹がとりはずしていなければある筈だし、妹があれからずっとここに居たのなら大家さんからあたらしいものをもらって、同じようにかけているだろう。妹は不精なところがあるが、そういう点はおろそかにしない。
壁には、俺があちらへとばされた年のカレンダーがかかっていた。
妹が豚肉を揚げている。俺はソファに横になっていた。「低血糖なんて、久し振りだね」
「そうでもないよ」
「色、綺麗になってきたよ」
「とりだしてから、手鍋、持ってきて」
「はい」
妹の声はかすかに震えていた。カレンダーを見てショックをうけた俺は、うずくまってしまったのだ。妹には低血糖だとごまかし、チョコを口におしこまれた。ずっと、口いっぱいに頬張って思いっきり食べたいと思っていたのに、実際そうなってもあまり嬉しくなかった。




