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からのカップとお匙を持って戻る。販売員さんは居なくなっていた。俺はカップとお匙の回収箱へ、持っていたものをいれて、家へと向かう。公園からはごみ箱も撤去されていたのだ。
いちごのジェラートで、かなり元気が出た。とにかく、これからどう生きるとしても、失踪で迷惑をかけたひと達には謝らないといけない。その筆頭は、家族だ。あんまり、心配しないでくれてたら、いいんだけど。
ローブを脱いだのは、目立たないようにという目的を達成するだけでなく、暑さから逃れるのに効果的だった。八月か九月くらいの気候に感じる。戻ってくる時に、それだけ時間がすすんだのかもしれない。
わからないな。タオラの例を見たら明らかだが、こっちとあっちとじゃ、時間がどうにもくいちがっている。考えたくはないが、今が過去だったり、遠い未来の可能性もある。
太陽が少し傾いて、俺はお祈りの鐘が一向、鳴らないことに、またしても居心地の悪さを感じていた。レント、それに御山では、毎日聴いていたものだ。それがないと、落ち着かない。なにかが間違っている気分になる。
住宅街にはいった。この時間帯にうろうろしていることは、あまりなかったな。買いものは朝はやくか、日が暮れてからにしていた。深夜だとそれはそれでこわいが、自転車で逃げればなんとかなる。それにこの辺、交番が結構あるのだ。
民族調のチュニックとずぼんの俺は、ローブがなくてもやはりそれなりに目立つようで、宅配便のおにいさんおねえさん達や、犬を散歩させているお年寄りなどが、俺をちらちら見ていった。まちの中心部と比べたら、この辺りには奇抜な格好のひとはひとりも居ないしな。気になるのだろう。
角を曲がって、四つ辻をまっすぐ。背の低いブロック塀がずっと続いている。
自転車、どうなっただろうか。ほったらかしで錆びてしまうよりは、妹がひきとってくれていたらいい。バイクは維持費がかかるから自転車に戻ろうかな、なんて云っていたし。
三つ目の電信柱で停まる。右を向く。ブロック塀が途切れていて、一歩這入ればアパートの敷地だ。大家さんはたまに、二三日居なくなるから、それに当たらないといいなと身勝手なことを考えた。大家さんは、近場の温泉地に旅行するのが趣味なのだ。
緑のサドルの、銀色のバイクが目にはいった。停めてあるそれから、女の子が荷物をとりだしている。アーガイルのタイツに、丈の短い赤いサロペット、淡いオレンジの薄手のカーディガン。
「あれえ、お兄ちゃん、帰ってきたの?」
振り返って、妹は素っ頓狂な声を出した。




