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「これで買えます?」
「あー、申し訳ない、物々交換はできないんですよ」
「そうですか」
「でもそれ、綺麗ですね」
「ああ、オパールですからね。7カラットくらいあるから、それなりの価値はありますよ。多分」
「へえ、よくできてるっすね。ほんとにオパールみたい」
「じゃあ、今度お金持ってる時に来ます」
「あ、待ってください」
販売員さんは両耳に沢山ピアスを付けて、日に焼けている。デニム地のキャップとエプロンは、お店の制服だろう。ピアスのひとつは小さなシトリンで、だから宝石が好きかなと思って話を持ちかけたが、だめだった。さっきのおにーさんは、宝石にくわしいのかなあ。でも、本物ってやっぱり、かがやきが違うと思うんだよね。
彼はマスクをしていてもはっきりわかる笑顔で、一番小さいカップに半分くらい、いちごのジェラートを盛った。ついっとさしだしてくる。「試食です。どうぞ」
俺はお辞儀して、小さなプラスチックのお匙がささったそれをうけとる。善意は厚かましくうけとることにしたのだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、試食は場合によっては大丈夫ってことになってるんで」
販売員さんは豪快に笑った。俺はショーケースの上に、オパールの指環を置く。「じゃあ、試食のお礼です」
「ありがとうございまーす」
販売員さんは大袈裟なような仕草で指環を押し戴く。俺は彼に手を振って、キッチンカーを離れた。彼も、早速オパールの指環をはめた手を振ってくれた。その後、左脇に置いてあるなにかを触っていたのは、帳簿だと思う。彼は身銭を切って、俺におごってくれたんだろう。
近くに公園があることは、覚えている。砂場が撤去された公園だ。
近くの遊具から砂場に飛び降りるのが子ども達の間で流行してしまい、撤去された。子ども達は、砂はやわらかいから落ちても大丈夫で、怪我をする子が弱いのだと考えていたらしい。
その超理論とともに、大家さんから聴いたので、はっきり覚えている。大家さんは俺の親戚(らしい。遠すぎて続柄を覚えていない)で、ひきこもっていた俺にたまに会いに来てくれていた。生存確認だったのだと思う。スキャンダル真っ最中の人間をかくまうなんて、まったく迷惑だったろうな。俺にはできない。
砂場はなくなったが、ベンチは残っていた。俺はそれに座り、カップにたった半分の、でもひとの善意が大量にこもったジェラートを、ふた匙で食べた。いちごの果肉いりで、乳脂肪がいい具合に感じられ、甘すぎずけどものたりないことはなく、凄くおいしかった。




