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俺はポケットティッシュをひらひらする。おにーさんは、顔がひきつっている。法定金利できちんとやっている業者ではないと、自覚はあるらしい。法に則って営業しているのなら、こんなに慌てない。
こんなこと、あちらでもあったな。そうそう、高利貸しを叩き潰して、それが後から別のことで疑われる原因になったんだ。
俺はポケットティッシュを、ずぼんの尻ポケットへねじ込もうとした。「あんまり長居しないほうがいいと思うな。前科がつくと大変だろうから」
あ、邪魔だな。
ポケットの先客をとりだした。同期とお揃いの指環、それにツィーさまのペンダントまでなくしたらつけようと備えてあった、指環よっつだ。
御山内にも、様々な不可領域というのは存在する。それが具体的に、どこにどの不可領域があるかは知らないが、存在するのは間違いないのだ。
だから、気付いた時には、備えとこうと殊勝に考えて、こうやってポケットになにかをいれておく。まあね、寝起きでそこまで頭がまわる時に限ってだけど。
それぞれ5から7カラットくらいの、アレキサンドライト、ダイアモンド、オパール、サファイアがはまった、金の指環だった。毎回、収納空間から適当にピックアップするか、お部屋の机に置いてあるアクセサリかごから掴みとるかしてポケットへいれているから、なにがはいっていたかなんていちいち覚えてない。
尻ポケットから無造作に指環をとりだした俺に、おにーさんは目をまるくする。
俺はちょっと考え、オパールをポケットへ戻した。オパール好きだから。手に残ったみっつは、おにーさんが着ている尋常じゃなく野暮ったいウィンドブレーカ(会社名いり)のポケットへつっこむ。「え」
「おにーさんも債務者なら、これで返して逃げたほうがいいよ」
「は?」
「不幸になるひと増やす手伝いなんかしてたら、いつか刺されるよ。気を付けてね」
スペースのできたポケットにティッシュをねじこみ、俺はじゃあねと云って、おにーさんに手を振ってその場を離れた。
別に人助けとか善行じゃない。なんとなくそうしたかったからしただけだ。意味はない。
なにも。
大きな通りから、段々と離れていく。太陽はまだ、高い位置にある。やっぱり、あちらと季節は同じかな。いや、それよりは、暑い気がする。それは単に、あちらよりもこちらの気温が高いというだけかもしれない。
アイスクリームを売っているキッチンカーがあって、俺はオパールの指環でどれだけのアイスを買えるだろうかと考えた。




