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笑いそうになってこらえた。歩道のまんなかでいきなり笑い出すなんて、こわすぎる。それこそ警察を呼ばれてしまう。二年近く経ったこちらがどうなっているか知らないが、俺があちらにとばされる直前は、物騒な事件が相次いでいた。そういうのだと思われたらアウトだ。
俺は努めて平静を装い、歩き出した。家まるごとなくなっていたら、さっきの女の子の教えてくれた交番へ行けばいい。俺は警察というものを無条件に信頼している。
ああ別に、二年くらいどころか、十年二十年経っていてもおかしくないんだよな。数十年くらい経っていたらどうしよう。妹なら、それでも生きているかも。
歩き出してすぐに、ひとを避けて歩く難しさを思い知った。昔はできていた筈なのに、何度もひとにぶつかっては、その度に謝る。迷惑そうにするひとはあまり居なくて、みんななにかほかのことに夢中で、気もそぞろだった。
ケータイを見ていたり、イヤホンから流れる音楽に集中していたり、同行者とのお喋りを優先したりしていて、謝罪もまともに聴かずに、いいです、とか、こっちもごめんなさい、とか云って、さっさと歩いていく。
そういう情況に強烈な違和感を持ったが、多分おかしなことではないのだ。ぶつかったのは俺だし、半分はあちらも謝ってくれる。
でも、やっぱり、ひとが多すぎる。密集している。六割がケータイを持ってなにかしらの操作(写真を撮ったり、通話したり、画面をくいいるように見ていたり。ケータイ電話だけど、通話しているひとは少数派だ)をしていて、半分はマスクをしていて、二割くらいが猛烈な勢いで歩いたり走ったりしている。車は大中小様々が、車道をぶっとばし、バイクや自転車もそれに負けじとかっとばす。キックボードやスケートボードで移動しているひとも居たが、当然のように馬車はない。勿論、熊やずんぐりした大きなとかげにひかせている馬車なんて、あろう筈もない。
人々の移動は、凄く小さな空間で、危険なような距離感で行われていた。レントはひとが多かったけど、道にこんなにひとがあふれているようなことはない。
結局、誰だって還元過多による魔物の襲撃がこわいから、年中ひとが多いレントを訪れはしても定住はしない、というひとが多い。各地の上流階級だとお邸はあるが、そこから出ても歩きではうろつかないし、西のせまい範囲を馬車で移動するくらいだ。
訪れるのは、入山でも奉公でもいいから御山に関わりたいというひとも多い。鍛錬で外に出ているか、お勉強でお部屋にこもっているかだ。レント内には、案外、ひとは居なかったということだ。
戻ってきてから気付くなんて、俺はどうあってもまぬけだな。
感想ありがとうございます。はげみになります。
誤字報告ありがとうございます。たすかります。




