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そもそもその辺に居るひと達がどれも似て見える。同じような格好のひとばかりだ。レントに慣れた俺は、それを見ていると落ち着けない。
それぞれの出身地域らしい格好をして、男性は着飾り、女性はまっしろな歯をしている。それに、慣れていた。
それなのにこのひと達は、どうだろう? 男なのに髪が短くて、ピアスさえしていないひとばかりだ。女性がアクセサリを沢山つけているのも、なんだか変な気がする。
そうじゃない。ここではこれが普通なんだ。
ここに居るのは、みんな、俺とは関係のないひと達だ。
「大丈夫ですか?」
我に返った。
俺は、道端にうずくまっていた。いつそうしたのか、思い出せない。とにかく、気分が悪かった。ひたすらに。
立ち上がると、眩暈がする。「大丈夫です」
か細い声が出て、全然大丈夫そうじゃないじゃんと自分でおかしい。
俺に声をかけてくれたのは、高校生か、大学生くらいの女の子だった。地味な服装で、化粧っ気もないので、たしかなところはわからない。
俺と彼女のまわりを、大勢のひとがとおりすぎていく。まったく無関心に。
女の子は、短めの黒髪で、優しい目許をしていた。間近でも肌の滑らかさがよくわかるから、やっぱりかなり若いのかな。食生活に気を配っていそうだなとなんとなく思う。
女の子は遠慮がちに、持っているトートバッグからなにかとりだした。皺のない手巾だ。まっしろで、きちんとアイロンをあてているらしい。随分きっちりした家庭なんだなあとどうでもいいことを考えた。
「あの、これ……」
さしだされた手巾を見てぼーっとする俺に、女の子は心配そうに小首を傾げ、自分の右頬を指さす。「ほっぺに」
「……あ、すみません」
手巾をうけとって、頬を拭った。頬には泥がついていて、だから手巾が泥で汚れた。
「お加減悪いなら、誰か呼びましょうか?」
「大丈夫です。ケータイ……あ」
「なくしちゃったんですか?」女の子の目が心配そうに瞠られた。「かしますよ」
「いえ、そこまでしてもらえません。ありがとうございます」
大丈夫だ。ふらふら歩いていたのは、短い時間だと思う。場所は多分……わかる。きっと。
少し離れたところから声がした。
「つぐみちゃん?」
「あ、ごめん、クラムくん」
見遣ると、可愛らしい男の子が、ちょっとすねたような表情で立っていた。どうやら、デートを邪魔してしまったらしい。悪いことをした。
「本当に、大丈夫ですから」
俺はできるだけ、しっかりと声を出す。笑みも、だいぶ自然になっていたようだ。つぐみちゃん、と呼ばれた女の子は、心配そうにしつつも、頷いた。俺が拒絶しているから、これ以上なにも云えないだけかもしれない。やわらかく、優しそうな雰囲気の子だ。
「あの、それ、つかってください。そこを曲がったら交番、ありますから、電話、かしてもらえると思います」
会釈すると、彼女は男の子のほうへ走っていった。「ごめんね」
「ううん。彼、大丈夫なの……」
ふたりは会話しながら、人波に紛れ込んでいった。
俺は手巾を握りしめ、もう一度口のなかで、ありがとうと云った。
とは(ID2011939)さまの作品
冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―
冬野つぐみのオコシカタ
よりキャラクターをかりました。許可戴きましてありがとうございます。




