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検証をどうやるのか知らないが、魔法だったら、的をふたつ用意して同じ魔法でどれくらい与えるダメージが違うかを比べる、とか、氷をつくる速度をはかる、とかだろうか。
「大変なんだねえ」
「ま、それをわかった上で入山してるんだから、あんまり大きな声で文句は云わないけどね」
充分はっきりと文句を云っていたユラちゃんはそう括って、肩をすくめた。それからミューくんを見る。
「ミュー、あんた、先生が怪我人を工面したからって怒らないのよ。癒し手になるんだから、どれくらい怪我を治せるかの検証は必要だし、わざと怪我をさせたってあんたならすぐに治せるんだし」
「わかってるけど、俺はちゃんと抗議するよ。そんなことは誰にとっても魔力の無駄だから」
ミューくんはひんやり返し、それから微笑んだ。「もう片方は、どうでもいいけどね」
その言葉に対する反応は、様々だ。サキくんは悲痛げに眉を寄せ、ユラちゃんは棒を飲んだようになり、リオちゃんはきょとんとして、リッターくんは表情を動かさず、ジーナちゃんは目に激しい憎悪を閃かせた。
ミューくんは顔を少し背けてしまって、俺からは表情がうかがえなくなった。
湖の傍には、ラスターラ卿と、傭兵協会から派遣された証人が複数、居た。
すでに、ほとんどの一年生が宣言を終えている。だから多分、今日の宣言一番のりは、ミューくんだと思う。
「やあ、ミュー」
「ごきげんよう、ラスターラ卿」
ラスターラ卿がミューくんの手をとって、手の甲に三回口付けた。証人のひとりが息をのむ。なにかしら、めずらしい行為だったのだろう。俺はラスターラ卿がミューくんにそんなふうにしたのを、はじめて見た。
ミューくんは小さく会釈して、ラスターラ卿の指先に軽く口付ける。返礼と云うことだろうか。
ラスターラ卿は微笑んだ。「今日は君にとって、記念すべき日になるだろう。立ち会えることを光栄に思うよ」
「こちらこそ、ラスターラ卿に立ち会って戴けて、嬉しいです」
ミューくんがはきはきと云うと、ラスターラ卿はにこっとして、ジーナちゃんへ目を向けた。「許嫁を同席させるのだね?」
「できれば」
「君に逆らう人間はいない」
ラスターラ卿はおどけて云い、ミューくんに腕を差し出した。ミューくんがラスターラ卿の腕に自分の右手を軽く置き、ジーナちゃんを振り向く。「ジーナ」
ジーナちゃんは丁寧なお辞儀をし、ふたりの近くまで行った。そのまま、三人は、湖へ向かって歩いていく。証人達がそれを追う。俺達はとり残された。




