322
なんとなく哀れを催した。
「ん」収納空間からマグをとりだす。牛骨のストックからつくった、根菜とたまねぎのスープを注ぐ。「これ。飲んで」
さしだすと、リッターくんは手袋をした手でマグをうけとったが、きょとんとしている。
「寒いでしょ。体壊すよ」
「……ありがとう」
「しもやけができる前に帰ったら」
云いおいて、門へと向かう。
今日も、生き証人さんは、まずそうなサンドウィッチをかじっていた。「よお、マオ」
「どーも」
名簿に名前を書く。
「昨日の話だけどな」
筆をおいた。「……うん」
「ちょっと待っててくれ。こっちも色々調整しないとなんでな」
「解った。ありがとオニイサン」
「ああ。それとな、酒は安もんしか出せねえとよ」
そりゃ残念。
「糖蜜いれて。それくらいで。で、蒸留酒。ミントってない?」
色々と注文を付けて、蒸留酒+糖蜜+スペアミント精油+ライムとりんごの輪切り+オレンジの搾り汁というなんちゃってサングリアができあがった。おいしいかは好みの別れるところだが、まずくはないかな。
それで解った。バーテンのおねえさんは素人。少なくとも、お酒の知識はない。帯剣しているから、なにかあった時の戦闘要員なのだろう。
おつまみは、ビスケットに、油とお塩で和えた角切りのフルーツをのせたものと、チーズをスライスしたもの。単純だけどおいしいよね。
おつまみのお皿とゴブレットを手に、サア賭けごとだ。今日も負けるぞ。
ルーレット……ちょっと勝ち。
ちんちろりん……負け。
ふたりで対戦するやつ……大負け。
来て一時間くらいだろうに、銀貨100枚以上すった。賭けってこわい。
うーん、もっとすらないとだめかなあ。お金借りない? っていうのを待ってるんだけど。
「あんた、これ好きなのか?」
我に返った。
さっき俺から銀貨70枚まきあげたおにいさんだ。今日もなにかの葉を噛んでいるし、今日も例のややこしいゲームのテーブルにはりついている。
俺はにこっとする。「好きっていうか、負けるとむきになっちゃう。えへ」
「そりゃいいね。人間として当たり前だ。負けりゃ悔しくてまたやりたい。勝ちゃ嬉しくてまたやりたい。賭けってそういうもんだろ。もうひと勝負どうだ?」
うけてみた。今度は勝ちだ。
おにいさんはにやっとする。「もうひと勝負だ」
結局、十回くらい勝負して、負けた。さいころの振りかたにこつがあるのかな?でも、どっちが勝つかは解らないのに。
収支がそろそろマイナス銀貨200枚になろうという頃、シアイル系のおにいさんが声をかけてきた。「勝負しないか?勝ったら有り金全部やる。まけたら一晩相手してくれよ」




