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お皿が空になると、リーリさんが持ってきたお菓子がふるまわれる。
粗く刻んだナッツ類とドライフルーツのいっぱいはいった、クッキーとケーキの中間みたいな食感の生地を、蜂蜜に浸したものだ。めったやたら甘いがおいしい。おいしいですと云うとリーリさんは嬉しそうに頷いた。
バドさんがにっこりした。
「得した。お客人がないと食べられないもんねえ」
「蜂蜜あったの、リーリ」
「なきゃつくれないでしょ」
リーリさんはくいと、顔を後ろへ向けた。この村のひとには解るらしい。バドさんルルさんが頷いたから。「あー、隠してたんだ」
「ちょ、ぞ、う、してたの。いつお客人があるか解らないんだから。マオ、ほんとならこれは来た日に食べてもらうものなの。遅れてごめんね」
「いえ。今日食べてもおいしいですから」
四人とも声をたてて笑った。ナジさんの奥さん=ドールさんでさえ。なにか面白かったかなあ。
半分くらい食べたところで、会話がやっと脳に到達した。「蜂蜜って、めずらしいんですか?」
「ん。最近は、シアイルから取り寄せたものばかりだからねえ」
「荒れ地がひろがってきてるから、養蜂はすたれちゃった」
ルルさんが溜め息を吐く。
「このところ、夏が短くって冬は長いし、まあるいお月さまも滅多に出てくれやしない。なんかの前触れかね?」
「バドは解るんじゃない? 「占い師」だもん」
「わかんないよ」バドさんが頬張っていたお菓子をのみこむ。「御山の偉い学者さん達が研究してるでしょ」
「還元が足りないの」
ぼそっとドールさんが云い、注目されて肩をすくめる。「ほら、昔、ハーイラおばあさまが云ってたでしょ? 還元をしなくなったら、この世はおしまいだって」
「そうだとしたらこの村は間もなくおしまいだね。残ってる還元士はズィズのじいさんとルッディだけ、バドんとこの子は御山へ行ったっきりだもん」
「おしまいって、具体的にはどういうことなのかしらね?」
「魔王が来るんでしょ」
ルルさんがおどけた。それは単なる軽口らしく、四人はくすくすと笑いあう。
こっちは背中にいやな汗をかいていた。すみませんここに居ます! 変なことの元凶だったらすみません!
リーリさんが気遣ってくれた。「マオ、もう少し食べる? 男連中には別にあげなくってもいいものだから」
「あ……えっと……」
「いっぱい食べて大きくなんなきゃね」
「ヤームみたいに?」
笑いが弾ける。
結局、おかわりはもらった。おいしかったから。




