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ノックの音がした。「はい!」
ベッドから飛び降りて、そちらへ向かう。本は棚へ突っ込んだ。
戸を開けると、ナジさんの奥さんだった。含羞んでにこっとし、俯き加減のまま云う。
「お昼ができました……運びますか?」
「あ、えと、行きます」
「はい」
奥さんはこくっと頷いていなくなる。頭にまきつけた布がひらひらしていた。
……とりあえずご飯。
外へ出る。腹が減ってはなんとやらだ。
おもやへ行くと、すでに食卓は整っていた。雑穀ご飯に煮込みをぶっかけた、単純かつおいしいやつである。
じゅうたんには、ナジさんの奥さんだけでなく、三人、女性が座っている。赤い服のひと、きらきらの飾りがついた布で頭を隠しているひと、布で頭を隠した上から花環をのせているひと。
「あら、うちのひとの云ってた通りだわ」
「坊や、こっちに座んなさいな」
女性たちはにこにこしている。赤い服のひとが空いた場所を示す。座った。「……こんにちは?」
「まー礼儀正しいこと」きらきらの飾りのひとが大袈裟に驚く。「うちの子にみならわせたい」
「あんたんとこはいい子でしょ」
笑いが弾けた。んん?
あ、花環のひと、セムくんに似てる。
ナジさんの奥さんが、ぽつぽつと説明してくれた。
赤い服の女性はシアナンさんの奥さん、バドさん。
きらきらの飾りのひとはラトさんの奥さんで、ルルさん。
花環のひとはヤームさんの奥さんで、セムくんのお母さん、リーリさん。
ナジさんの奥さんは、ふたりきりだと恥ずかしいので、と云っていたけれど、こちらが緊張しないように呼んでくれたのだろう。奥さんたちはよく喋り、ころころ笑った。
「ダストはいいものたべてるわね」
「ドールは料理がうまいわ」
「坊や、名前をきいてもいーい?」
会話量に圧倒されて、自己紹介も未だだった。お水のはいったゴブレットを置く。「マオです。マオ・クニタチ」
「あらー名前も可愛い」
「退屈してなーい? おばさん達が案内してあげようか?」
大丈夫ですと云う。三人はくすくす笑った。
食事中は、ご近所の話題がほとんどだった。誰のお母さんが少しぼけてきているから協力しようとか、どこの長男の嫁とりがまだで下が渋滞しているとか、還元士が減ったから困るとか。やっぱり、還元士って居ないと大変なのか。




