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巧くいくかはそれこそ賭けだが、やらなかったらどうしようもない。つまりやるしかないのだ。
ルッタさんには俺の悪口をあちらさんへ吹きこんでもらう。お酒臭い、男に媚びを売る、セロベルさんを顎でつかう。それに、金に困っているらしい、もつけ足して。
ごまかしようはあるでしょ。図書館の例でも解るけど、もとの世界と違ってデータ管理とか色々ゆるいし。
俺が誰かから金を借りるなり支払いをしないといけないなりで困っている、と思ってもらえればいいだけだから。
で、俺は紹介状を手に賭場へ行って、お酒をぐびぐびやって(状態異常無効だからなんとかなる筈。そもそも今まで酔ったことはない)、オニイサンたちに色目をつかって、賭けにも手を出す。勝っても負けてもいい。もっと大きい勝負をしたいと思っている、と思わせる。何回か行かないといけないだろうな。大丈夫、昔取った杵柄だ。一応、度胸があって大胆な演技って誉められたことあるもん。
あとは、巧くいったら……。
食べた気がしないが、まかないが消えている。
「あのね、セロベルさん。俺って怠惰な人間でさ、頼れる場合はひとを頼るようにしてるの」
「ア?」
「ほら、自分はひとに頼らないって決めてるひといるじゃん。俺は無理。頼る。だいたい、ひとりで生きていくのも誰にも頼らないのは不可能な話でしょう。そんなこと云ったらおれ、おなかが痛い時でもお薬ひとつ服めないし、布を織るのも動物を狩るのもできないから服も着れない。金属加工は出来ないから包丁もはさみもつかえない。農業技術もないから小麦も食べられない。お水は出せないうえに、井戸を掘ることも無理。ね?」
「……話が見えねえぞ」
片肘をついたセロベルさんの鼻先をつつき、俺は組んだ腕をテーブルへのせる。
「じゃあね、自分で畑を耕して、獣を狩って、刃物もつくれて、井戸も掘れて、布も織れるし縫製も完璧で、家まで建てちゃうようなひとが居るとするでしょ?」
「……ああ」
「じゃあそのひとは他人に頼らずに暮らしてるかって云ったら、俺は違うと思う。だって、どの植物は毒じゃないとか、この獣はこう狩ればいいとか、どんな繊維が布に向くとか、家が倒れないよう建てるにはどうしたらいいかとか、そのひとが考えついたわけじゃないでしょ。先駆者の知識だもの」
「は?」
「もっと云ったら、親が居ないと自分は存在しないよね。それって、いろんなひとに頼って、その結果として自分が居るってことだと思ってる」
「だから、結局なにを云いたいんだ、お前は」
「セロベルさんはひとりで背負いこみすぎ。それが責任の取りかただって本気で思ってるんなら、凄くかっこ悪いよ。俺にはそれは、他人に頭を下げて助けてもらうのがいやだって云ってるように見える」




