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お酒も嗜む程度で、深酒はしない。だから、賭場で起こることはみききして、覚えている。次どこで賭場がひらかれるかも。
必要なのは、入場料の銀貨1枚。それと、つれてってくれる友達。もしくは、紹介状。
はいったらお酒は呑み放題。裾野のひとはお酒に弱いから、呑み放題と云っても浴びるようには呑まない。うまい商売である。
あとは、賭けをかならず三回はすること。うしろめたさを共有させておけば、いかさまをしたひとへ制裁を加えるところを見ても、口を噤んでいてくれるから、だと思う。
ある種の治外法権、というのは共通認識ではあるみたい。教えてくれはしたけれど、マオちゃんが行くのは危ないよ、ととめられたから。
まあ紹介状は書いてもらったけどね。へへん。
羊皮紙のきれっぱしに、ぐにゃぐにゃとあわてたように書きつけられたそれを、ひらひら振る。
「これで、賭場にはいれます」
「……はいってどうする。賭場自体は捕まるようなことじゃねえぞ。いくら、ラッツァクの所有してる、トーリュス邸あとだとしても」
セロベルさんは呆れたように云って、目を細くして俺を睨む。「あいつに指示してたことと、かかわりあるのか」
舌をだした。セロベルさんは、怒るような笑うような顔をした。
あいつ、とは、ルッタさんだ。
あのあと、ルッタさんに頼んだ。借金とりへ、俺のことを話してほしい、と。
エウゼくんがすりをして捕まったことは向こうも知っているだろう。ついでに、謝罪行脚中なことも。
ルッタさんは、十日に一回、借金の返済に赴いている。その時に、弟がしでかしたことは悪いが、どうにもいけ好かないのが居る、と一席ぶってもらう。
男のくせに耳飾りもつけていなくて、髪も短いし、いかがわしいショウバイをしていたんだろう。何故それに頭を下げなくちゃならないの、と。
で、ここからはまったくの嘘だけれど、セロベルさんが俺に恋愛感情を抱いている、ということにしてもらう。セロベルさんは俺のいうなりで、でも俺は享楽的で贅沢好きなので、借金のあるセロベルさんにはどうしようもできない。
ま、あれだ。そういうのに騙されてて四月の雨亭のひとは可哀相、とやる訳。
お酒臭かったし弟のこともいやらしい目で見ていたと云っておいてくださいと頼むと、ルッタさんは困惑していた。必要ですからと念押ししたら頷いてくれたので、なんとかなるだろう。
それを聴いた相手がどうなるかと云ったら、俺をマークするよね? セロベルさんの弱点として。




