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暫くすると、チェスくんはお菓子を食べながら眠ってしまった。
ミューくんがほーじくんへ頭を下げる。「本当に」
「いい。面倒」
「あ……はい」
ちょっとほーじくんつんつんしてるな。機嫌悪いみたい?
チェスくんの口許をタオルで拭い終え、手を停める。「ミューくん、これでいいかな」
「ああ、ありがとうございます。こいつ、入山が決まってから機嫌が悪くて」
「おにいさんが居なくなるの、淋しいんじゃない?」
「そうみたいだけど、きまっちゃったし……」
ミューくんは弟の頭の汗を拭う。チェスくん、頭蓋骨の形が綺麗だなあ。
ほーじくんがびくっとした。なにかと思えば、サーダくんがほーじくんの羽をひっぱっている。「にいさま」
「フォージ。お前というやつは、昔から態度も目付きも悪いし、だらしなくてやる気もないし……ファバーシウス家ともめごとを起こしたいのか?」
「そういう訳、じゃない。もめごとなんて、面倒くさい……」
「ならもっとしゃんとしろ。謝りもしないで、善なる魂を持つ者としてはずかしいと思いなさい」
ほーじくんは、訳が解らん、というような顔をした。
しかし羽をひっぱられるのは不快らしく、わかった、とミューくんへ向く。意外にもあっさり頭を下げた。「ごめん」
「ひぇっ。いえいえうちの弟が失礼なことを云ったのが悪いですからっ」
ミューくんは寧ろあわてている。顔色が悪い。「あの、こちらこそ、ティヴァイン家のかたに頭を下げさせたなんて親に知られたらどうなるか。もう勘弁してください」
ほーじくんは頭をあげる。サーダくんは納得していない様子。
「しかし、これが不躾にあなたをじろじろ見ていたのが悪いのだから……」
「あにさまは、融通が利かないな」
「黙らっしゃい。昨日も訳の解らないことを云って先生に叱られていたくせに」
「訳が解らないのはあっちだと思うけど」
「減らず口め」
サーダくんがほーじくんの口をぶにっとつまむ。
あ、かわいい。嘴。
笑ってしまった。ごめんなさい、と顔を背ける。くちばしみたいになってたんだもん!
「まお」ほーじくんはサーダくんに口をつままれたまま云う。「楽しい?」
「え、あの。ぐっ。お。おもしろい」
「そう。あにさまも、やくだつ」
「……愚弟」
頬をひくひくさせてサーダくんは手を離し、ぺちんとほーじくんをはたいた。羽毛っぽいものがふわっと舞い落ちる。……拾ったりしてないよ? してないしてない。
結局、どちらも謝ったし、で、それ以上大事にはならなかった。チェスくんは爆睡。ミューくんの入山が決まって以来、夜中に起きて泣いたりしているそう。可哀相だけど、ミューくんにとっては嬉しいことだろうし、複雑だなあ。




