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はずかしそうにして、ルッタさんは頭を下げた。
「本当にごめんなさい。結局は、わたしが悪いんです。姉が居るうちに、証人をたてて絶縁していればよかったし、エウゼにもちゃんと事情を話して、井で大人しくさせておくべきでした。それに」
ぱっと顔を上げ、ルッタさんは、一瞬口籠る。
「……この間は、失礼なことを云って、ごめんなさい」
「いえ」
腹は立っていたし、傷付きもしたが、事情が事情だ。寝る間もおしんで、ろくな食事もせずに働いていれば、言葉が荒くなっても仕方ない。「疲れてたんでしょう。もういいですよ」
「いえ、こちらが疲れていようが、お客さんへ云っていい言葉ではありません。本当にごめんなさい」
頭を振る。
あの言葉は多分、酔って帰ってくるルーシュさんへ、父親が投げつけていたものだろう。ルッタさんが知るルートはほかにありそうにないから。
ルーシュさんへの怒りが、このひとのなかでずっとくすぶっているのだ。
ルッタさんはセロベルさんにも頭を下げる。「弟たちが、警邏隊の皆さんにも迷惑をかけて、失礼なことを云ったと聴きました。ごめんなさい」
「ああ、いや……そういや、彼奴らどうして俺達を悪党だって?」
「警邏隊は、お大尽や、商会の護衛だと思っていたみたいです」
成程。レント中央付近の、大きな商会のまわりには、警邏隊が沢山居た。単に、犯罪抑止の為だろう。そういえば詰所も多かったな。
ケーネズたちは、警邏隊はお金持ちの護衛をしているだけで、ちっぽけな農民や商人から財布をすっても平気だと考えていたらしい。で、警邏隊が押しかけて来た時は、ルッタさんが借金をしている相手が、借金を返させまいと差し向けたと思ったのだとか。それで、悪党だなんだと云っていたのか。
因みに、あの毒は、「毒婦」というめちゃくちゃめずらしい職業(またしても適職がそれしかないパターン)のケーネズがつくったもの。毒婦は毒をつくるのに長けている職業で、なんじゃそりゃと思ったが、麻酔的なものもつくれるので重宝される。ケーネズは孤児なので、罪を償えば薬工房から引く手数多だろうとのこと。
子ども達は、ルッタさんからざっくりした事情を聴き、反省した。今は井で大人しくしている。盗んだものはほとんど残っていたので、重い罰はない。
エウゼくん以外孤児だが、「不名誉職」の子ばかりなので、里親は見付かりそうらしい。ハーバラムさんが云っていたが、名前が悪いだけで、不名誉職の職業加護は役立つものが多いのだ。
エウゼくんが目を覚ました。きょろきょろし、ルッタさんを見付けると、ほっと息を吐く。「ルッタねえちゃん……」




