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エウゼくんはエウゼくんで、重大な勘違いをしていた。ルッタさんが借金をしていて、どこかへ連れ去られようとしている、と思っていたのだ。
エウゼくんにしてみれば、ルーシュさんはいつも着飾っていて、お化粧もしていて、帰ってくるときはお菓子やなんかをお土産にくれる。
比べて、ルッタさんは同じ服ばかり着ているし、お化粧はせず、売れ残りのパスタに火を通しただけのようなものを黙々と食べておなかを満たしている。
どう考えてもお金がないのはルッタさんで、だから、ルッタさんが借金をして、ルーシュさんには(以前喧嘩して追い出しているから)助けを求められない情況だと、エウゼくんは信じていた。ルーシュさんに頼めばなんとかなる、と。
それで、ルーシュねえちゃんをさがして、ルッタねえちゃんを助けなきゃ! と、井を抜け出した。
その後、ケーネズたちと一緒になって、小さな盗みを繰り返していたのは、遊興目的ではなく、借金を返してルッタさんを助けようとしてだったのだ。それに、ルーシュさんをさがしてもいたらしい。
「わたしにくれるつもりだったみたいで、盗んだものはほとんど全部手許に残していました」ルッタさんは目を伏せる。「だから、弁償はなんとか、頑張れば、できそうなんです」
「おねえさんは……」
「見付かってません。あのひとはいい加減だから、逃げたに決まってるわ。そもそも、ディファーズを追われたのも、姉のせいで……」
ディファーズを追われた?
ルッタさんは苦笑した。マグを置く。
「十二年前の、信仰告白騒動は知ってるでしょう。姉はあれで捕まりそうになったんです。結局、一家揃って、逃げるしかありませんでした」
しんこうこくはくそうどう。
セロベルさんが気の毒そうにルッタさんを見た。「そりゃあ災難だ。職業か?」
「はい。癒し手になるのを拒否したんです。それで、つまらない、魔導戦士なんてものになって。癒しの力はもうあるからいいんだって」
「時期が悪かったな。俺の知り合いにも、癒し手を拒否したやつはいる」
セロベルさんがなぐさめるように云うと、ルッタさんは頭を振る。
「姉は、かぶれてたんですよ。ウェルとかいう司祭崩れの妙な教えに。どれだけのひとが粛清されたか解らないのに、自分だけは無事だとたかをくくっていました。家族みんなが迷惑してるのに……ごめんなさい、愚痴ばかり」




