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棚が空っぽだったので、本はとりあえずそこへいれてもらった。適当に取り出す。
「神の言葉集」。「天の恩寵」。「簡易版・魔法体系」。「図説年表」
……宗教関係っぽいの、魔法の本、歴史の本。
もともと濫読するほうだ、手当たり次第に読むことにした。
まず、歴史の本。ほかにも一冊あって、昨日ダストくんから聴いたのとほぼ同じことが書いてある。叛乱の理由は、「魔力絶対主義への反撥」。
なんでも当時の王国(帝国らしいがシアイルと紛らわしい)は、出世のためになにがなんでも魔力が必要だったそう。
魔力が低けりゃ、家柄がよくても頭がよくても物理で強くても駄目。爵位は継げない、結婚にも支障がある、ばかにされるし辺境に飛ばされる。いいことはない。
魔力なしに至っては人権もなかった。ひととして扱ってもらえなかったのだ。
南の国々には魔力なしのひとが多いらしく、それが侵略の大義名分になった。「人間のいない土地を開拓する」、と。
その為に働かされたのが、魔力が低いか魔力なしの、めずらしくない職業のひと達。
兵站はあってないようなもの。物資もまともに届かない。病気がはやれば兵の半数は死ぬ……そこそこめずらしい「癒し手」はいなかったからだ。そら、反発するわ。
結局、当時戦わされていた兵達は、捨て駒にされるのがいやになった。魔力の多寡で人生が決まるような国なら斃してしまえとなった訳。
他方、王国にもある程度の理由はあった。魔王だ。
王国は叛乱の数百年前から「魔力至上主義」へと突っ走っていったのだが、それは魔王討伐の代償だった。
ある時、荒れ地に魔王がたち、王国を脅かした。
魔王はもの凄い美人だったそうで、公爵やら王子やらがたちまち骨抜きになって魔王の味方に付き、魔物も魔王のいいなりなので、王国軍は大変な劣勢を強いられた。
その戦い、魔王の敗北で幕を閉じるのだが、それまでに二十年というばかみたいな時間がかかっている。
勝因は、魔導士部隊の活躍。特殊能力「魔術者」、魔力優以上、職業「魔導士」のみで固められた精鋭部隊だ。
能力値は特優>優>良>可>不可なので、優で固めてあるのは凄いことらしい。しかも全員が「魔術者」で「魔導士」だ。「万能」というすべてに上方修正がかかるチートな特殊能力も持っているひとも三人いた。
負ける訳のない編成で挑み、漸くと魔王を打ち負かした王国は、また魔王があらわれた時の為に、国としての方針を決定した。
「魔力を持つ者をそうでない者より優遇する」。「魔力のない者は臣民として扱えない」。
物理で特攻かけて全滅した苦い記憶のある当時の国民たちは、甘んじて受け入れた。それが何百年かたって、国が亡ぶ理由になるとも知らず。
ディファーズだが、こちらもこちらで言い分はある。
還元士の搾取である。
還元士は数が減ると世界に悪影響を及ぼす。しかも、ひとつところに居ればいい訳ではない。還元が追い付かなくなると、おそろしい天災が起こる。地震や火山の噴火、などだ。
でも、当時の王国は還元士を囲い込んだ。神聖領は抗議したが、還元士もその大概は魔力もちであり、有事の際に魔法で戦えるため、国は耳をかさなかった。
叛乱が起こったのは、神聖領で真夏に大雪が降り、隕石で沿岸部が壊滅的な被害をうけた年だ。いい加減堪忍袋の緒が切れた神聖領は、決してシアイルに手を貸そうとはしなかった。
ただし、南には違う信仰を持つ国があり、ロアと手を結ぶこともなかった。
読みながら冷や汗が出た。何百年か三国で争いが絶えず、未だにいがみあっているのは、もとをたどれば「魔王」の所為……。
職業ばれたらまじで血祭りにされる。
ブックマークありがとうございます。
はげみになります。




