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次の日の昼間。
この世界では(裾野では?)、週に何日休む、という習慣はない。曜日はあってないようなもので、どちらかと云うと「月に何日」もしくは「十日に何日」休みをとっていい、というのが普通。
四月の雨亭は、年末にふつか閉めるだけ。商人協会の行事とか、上納の関係らしい。
従業員は、月に五日までなら有給で休める。最初に説明を受けなかったが、改めて、そう云われた。
と云っても、行くところもないし……図書館はおそろしい。
「ねー、マオくん?」
今日も今日とて来ているライティエさんが、定食を運んできた俺に云う。
「あのね? レンキンジュツシゴロシってしってる?」
なんだその物騒なの。
と思ったが、なんとなく覚えがある。……あ。
「薬材ですか?」
「そうー。やっぱり知ってた。ね、メイラ?」
「マオ、勉強してんだね」
サローちゃんのノートに書いてあったやつだ。
茅みたいな感じの植物で、淡い黄色。収穫したものが刺激を受けると変色するので、収納空間以外での運搬が難しい。
湯掻いて食べるだけでも病気が治るくらい栄養豊富で、錬金術士の存在意義がなくなるということから名前が錬金術士殺し。或いは、品質が落ちる前に加工するのが困難なため錬金術士が疲れて死んでしまうから、とも云われる。
どちらにせよ、薬の材料として、相当めずらしくかつ有用。状態がよければ、葉が一枚で銀貨5枚の価値だ。
「で?」
クッキーの包みを渡すと、ライティエさんは嬉しそうに両手でうけとった。「それが、どうかしました?」
「ん。近場の村に駐屯してる警邏隊から連絡があったの。群生地が見付かったんだって」
ほう。
定食を食べはじめたライティエさんに代わり、苦笑したメイラさんが引き継いだ。
「見付かったのは、レントから東へ一時間半くらいのとこだよ。あの草は昼間でも摘めるけど、ほっとくとすぐに枯れちまう。マオ、採りに行かない? セロベルとわたしらとさ」
「でも……いいんですか? 警邏隊の情報」
情報漏洩にはならないのだろうか。
メイラさんが豪快に笑った。「あんたって真面目ねえ。でも、よくなきゃ教えないよ。傭兵に話が伝わったのは、調剤系職業のやつらやその採取係に頼まれたら、成る丈手伝ってやれって意味。いい薬ができたら結局わたしらの利益につながるからね。いい薬があれば、それを真似してつくることもできる。たとえば、もっとありふれた材料で。でも、ものがなけりゃ真似はできないだろ?」




