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じゃあ借りるのはどうなのだろう、と気になって訊いてみる。
答えは端的だった。「ハ? 本を持ち出すってことか? そんなことしてみろ、図書館員に殺されるぜ」
え? そんなデスペラードなの図書館員。
基本、めずらしかったり扱いに注意が必要な本が多く、貸し出しはきちんとした許可をとってから。
当然のように職業だった図書館員は、図書館での本の管理に命を懸けており、本を無断で持ち出した者を追跡して危うく殺すところだった、という事件が結構頻繁に起こっているそう。
いやいやセキュリティ。本を無断で持ち出すほうもどうかと思うよ。決まりなんだからまもろうよ。
けど、もとの世界みたいに、コンピュータで管理したりは出来んだろうし、巧いことやればぬすめるのか。
しかも、セロベルさんがおそろしいことを云う。
「図書館員は盗まれた本がどの方向にあるか解るから、地の果てまででも追ってくるってよ。司書になると、方向どころかどこにあるかがはっきり解るらしい」
こっわ。司書すげえ。
司書は図書館員の上級職?みたいな感じ。ついでに、「物品管理系」職業のなかでは最高クラスのめずらしさで、今現在裾野に司書はいないとか。
色々聴いたら、図書館こわいんだけど。そもそも能力証明証がないから這入れないのだが、むやみに近寄らないでおこう。さわらぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず、だ。
セロベルさんに本を(きちんとした手続きを踏んだ上で!)借りてきてもらう、という手はないでもないが、読みたいのは「魔王」「よそ」「ロアの少数民」「異教」に関する本だ。怪しまれそう。
なので、とりあえずは諦めた。本屋さんもあるし、それに御山が本命だ。ていうか図書館こわい。
「サッディレくん、ソースおいしい? たベられる?」
「あ、はい、おいしいっす」
「そんなに肉ばっかくってよく平気だな」
「肉がない時くらいしか葉っぱはくわないんで」
サッディレくんは野菜のことを葉っぱと云う。食べもの=お肉、という文化みたいで、お昼も山羊肉のステーキだけだったそう。
お菓子は、と訊けば、あれは嗜好品、とにやっとしていた。お酒みたいな扱いっぽい。
かたやセロベルさんは、どちらかと云うと草食である。特に葉物野菜が大好きみたい。グロッシェさんはもっと顕著。
ま、ビタミンが欠乏するかもしれないくらいで、お肉だけでも生きてはいける。当人が食べたいものをおいしく楽しく食べるのがいいと思うので(アレルギーは除く)、サッディレくんにはお肉ばかり出そう。さいわい、市場で安く売っている。




