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「学生に会ったの? 大丈夫だった?」
「大丈夫じゃない」
四つ目のソーダブレッドをかじりながら心配そうなサフェくんに、ランスさんはテーブルに片肘をついた状態で応える。食欲がないみたいで、お膳の中身は半分も残っていた。
すでに全種類をおかわりし、オムレツを五個くらい食べているサフェくんは、ぐっと眉を寄せる。
「やっぱりこわかった?」
「ハ? こわい? 違うわよいらついてんの。腹がたつの!」
ランスさんはハムチーズをフォークで突き刺し、サフェくんはソーダブレッドをもぐもぐする。
俺はおかわり三回目、大盛りにしてもらったサラダをつつき、云った。
「なんか云われた?」
「云われた」
「なんて?」
「ほら……名簿、もらったでしょ。わたし、まだ覚えてなくて」
「それはあたしもだよ。ディロもでしょ?」
「うん。あんなふうに云わなくてもいいのにね」
ディロさんは、今朝までの元気がない。はあー、と溜め息を吐く。
「ちゃんと覚えないと。また云われたらいやだもん」
「そうね。ランスも、もう忘れなよ」
「無理よ、腹がたってるんだから。自分は入山者の名前全部覚えてるのかって話でしょ? それに、名前が解らなくても、掃除だって洗濯だってできるんだし、どうして職務怠慢になるの。百歩譲って、奉公人だから学生の名前を覚えるとしても、よ? 昨日今日ですぐに覚えられる訳ないじゃない。そうでしょ、サフェ」
ランスさんに同意を求められ、サフェくんは困った顔で小首を傾げた。ランスさんは口を尖らす。
「なによ、あんたもう覚えたの?」
「ううん、僕はまだ。でも、マオが……あの、僕達もその、学生に……」
「絡まれたの」
身も蓋もない表現だが、それ以外にない。サフェくんは怯え気味に頷く。今しも学生があらわれて、絡むなどと表現するとは何事だ、と云ってくるかも、と思っているみたいに。
ランスさんは俺を見る。「マオ、名前、覚えたの? 昨日の今日で?」
「全部は覚えてないよ。俺達に話しかけてきた子が、十二歳で入山試験に通ったっていう、凄く優秀な子だったからさ。たまたま覚えてただけ」
「……ねえ、神聖公国寮の、女、赤土みたいな色の髪と瞳で、肌ははちみつ色、背丈はマオくらい、剣を佩いてる学生の名前、解る?」
「えーっと」それだけ情報があれば、ある程度しぼれる。「ミロア・ルモさま、かな。一年生。大ルモ家の傍系。志望は魔導戦士で、実技だと上から二番目の班に組み込まれてるね。巡らせる者と癒しの力を両方持ってるから、ひとりでも相当戦えるみたい」
ランスさんが項垂れた。「ああ、解ったよ、ちくしょう。覚えなきゃ」




