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「お前は安全なところで待ってろって」
「とられたものがあるの」
大通りへ戻った。反対側の路地へとびこむ。あしはえーなこのひと達!
すぐに息が切れて、セロベルさん達とは距離が開き始める。「よし! ヨーのやつやりゃできんじゃねえか」
セロベルさんが嬉しそうに云った。
どうやら、警邏隊たちは、無線のような連絡手段があるらしい。俺にはまったく聴こえてこない。
ふたりが急に停まった。
俺もゆっくり停まる。「なに……?」
「こっちに追いこんでる」
え?
セロベルさん達は細い路地をふさぐように立っている。どこへ追いこんだのか。
「ああ畜生。予定と全然違うじゃねえか」
「まさかあちらさんから仕掛けてくるとはな」
「ああ、油断して……来たぞ」
子どもが集団で走ってくる。四人。大きい子でも、身長150cmはない。
セロベルさんが意外そうに云った。
「随分ちいせえな」
「ああ。よし、泥塗!」
うわお。驚いた。
子どもたちが走っている路地が、突然ぬかるみになったのだ。そういう魔法みたい。
子どものうちふたりは転んだ。後ろから追っていた警邏隊がそれを確保する。残りふたりは、泥にあしをとられつつも走り続ける。セロベルさんが叫ぶ。「怪我したくなかったら大人しく捕まれ!」
子ども達は停まらない。たしか、あれ。宗教上の理由。人間同士での傷付け合いは凄く悪いものとされていて。
ひとりを、セロベルさんが引っ掴んだ。そのまま抱き上げる。
「おら、大人しくしやがれ」
「ユスっ、あれをつかえーっ」
セロベルさんに捕まった子がもがきながらそう喚く。
もうひとりは小柄で、魔法でぬかるみをつくったひとの手からするりと逃れた。こっちに来る。
深く考えずにその前に立ちふさがる。黄緑の髪を低い位置でふたつにくくった、……男の子?
「悪党め!」
「うえ」
なにかかけられた。ううわ、甘い、なにこれ? というか悪党は君達では。
あ、のみこんじゃった。右目にはいったのが痛い。甘すぎて気持ち悪いんだけど。シロップかけられたのかな。
瞬いていると目の痛みはひいた。俺にシロップ(仮)を投げつけてきた子も捕まっている。よかった。
「盗んだもの、返しなさい」
うう、あんまい。洗い流したい。しかも、すげー色してるじゃん。真っ赤。血糊みたい。そういや、一回血糊塗れになったっけ。お蔵になったやつ。おばけ役だったんだよな。
「マオ大丈夫か?!」
バルドさんが走ってきて、俺にざばっとお水を浴びせた。




