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今日もお昼は盛況だ。
皆さん定食を食べたうえでお弁当やクッキーを買っていく。つくっといてなんだが、沢山食べるなあ。
気持ちは解る。おいしいものが安かったら沢山買っちゃうよね。
一番いそがしい時間帯がすぎて、お昼休憩をとった。つまり食事。
まかないだから好きなものを食べるのだ。れんこん!
れんこんをしゃくしゃく食べていると、食堂からの声を耳が拾った。警邏隊のひとみたい。
こそっと様子をうかがう。やっぱり朝来たひとだ。鎧は着ていないけれど、オレンジ色の髪をあみおろしにして、翡翠の飾りをつけているのを覚えている。
アーチからぎりぎり顔を出さないくらいで、ききみみをたてる。
「あやしそうなのは、やはり南だな」
「あっちはがきが徒党組んで悪さしてるんだろ。隊長はなんだって?」
「すばしこいから、大地魔法をつかえるものを集めろと」
「俺は休んでていいんだな」
セロベルさんがそう云うと、相手は頭を振った。
「いや、お前は体力が高い。居てもらいたいそうだ」
「……弁当目当てだろ」
はははとオレンジの髪を揺らして笑っている。セロベルさんの耳がぴくっと神経質そうに動いた。
「ヨーに云っとけ。マオはもう足を洗ってる」
「ヨーもそれくらい解ってるさ。お弁当楽しみにしてるぞ」
「やっぱりそれ目当てかよ」
オレンジ髪のひとが踵を返し、セロベルさんがクッキーの包みを投げつける。振り向きもせずうけとっていた。運動神経。
「おごってやるよ、バルド」
「ありがと」
バルドさんは、じゃああとで、と出て行った。
セロベルさんが戻ってきた。「ご飯できてますよ」
「ああ、ありがとう。食べる」
グロッシェさんも、客室やお風呂場のお掃除を終え、やってきた。
ふたりともテーブルへ着き、食前のお祈りをきちんと捧げている。グロッシェさんは俺に慣れてくれたのか、フードを外していた。
俺はごはんの残りを食べてから、クッキーをつくる。ひとつつみがエスター30から40くらいのクッキーは評判がよく、相当売れているのだ。小麦粉は市場で沢山買ったし、油もある。ナッツを手にいれたから、刻んだナッツいりの生地にしてみた。焼く前からおいしそ。
セロベルさんが、お祈りを終えて、ちょっとしてから云う。
「今日、警邏隊の仕事がはいった。弁当つくってもらえるか?」
「はい。人数は?」
セロベルさんを振り返る。ろくじゅう、と申し訳なそうにしていた。




