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お湯をやりくりし、体を洗うのに成功した。
そろそろ服の替えがない。余ったお湯で下着類を洗い、しぼって収納空間へ放り込む。これも、熱魔法とか、風魔法とかあれば、すぐ乾くのだろうか。
井戸端で歯を磨き、部屋へ戻って寝た。ランタンは、火を消して厨房へ置いておいた。
色々と考えごとをしていた筈なのだが、夢も見ない深い眠りから目覚めるとすべて忘れていた。
なんだっけ。
吊るされた、生乾きの服を見て思い出す。洗濯ものを干す場所がほしい。
とりあえず起きた。井戸端で歯を磨いて顔を洗い、トイレへ向かう。トゥアフェーノは眠っていた。
井戸でお水を汲んでから厨房へ這入った。朝ご飯はなににしよう。市場に買いものに行かなくちゃ、パンが足りないぞ。
腕組みして献立を考えていると、グロッシェさんがお顔を覗かせた。フードを外している!
「おはようございます。昨夜はありがとうございます」
「おはようございます……あの、洗濯ものあったら、お部屋に置いてあるかごにいれて、廊下へ出しておいてください」
それだけ云うと、面映ゆそうにフードを被って、ランタンを引っ掴んで去ってゆく。かわいい。
お洗濯、してもらえるんだ。めちゃくちゃ環境のいい職場だ。
部屋へ戻ると、慥かにかごがあった。テーブルの下で見えていなかったのだ。
汚れものをいれて、廊下へ出しておく。パンを買いにいかないと。
グロッシェさんを見付け(庭掃除中だった)、買いものへ行ってくると伝えて市場へ行く。まだお祈りの時間でもないし、昨日の朝ほどひと通りはない。
首尾よく食料と、サンドウィッチを包むための紙を手にいれた。帰ろうと方向転換すると、荷車にぶつかった。謝る。荷車をひいている、ぽちゃっとしたおにいさんが、笑顔でみちを譲ってくれた。
荷車の中身は野菜だ。市場に仕入れに来たのかな。
すれ違って暫く進む。さっきパンを買ったのとは別のパン屋さんが開いていたので、買い占めない程度に買った。収納空間へいれておけば腐れないどころか冷めもしない。なら、沢山買っておく。
ほかにも、はぶらしを買ったり、お店が開いていたのでお砂糖も買った。もう充分だ。これで暫くは保つ……かも。
ゆったり歩いていると、かすかに鐘の音が聴こえてくる。もうお祈りの時間か。
後ろから悲鳴が響いた。びくついて振り返る。目をこらすと、みちに物が散乱しているのが見える。「巾着切りだ! 捕まえてくれ!」
小柄な人物が走ってきて、俺の脇をすり抜けていった。




