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解らなくなるのもいやなので、銀貨1枚に統一しよう。
銀貨1枚と云うとリエナさんはこっくり頷いて、食堂へと移動する。「一人前お願い」
まいど。
お米はパンと比べて高かったので、おかわり自由は無理だ。大盛りにしとこう。
酢豚定食をトレイへのせた。デザートはくだものの盛り合わせだ。
ワゴンを押して食堂へ行く。と、セロベルさんにぶつかりそうになった。「うわ」
「おっと、わりい。お客が来てる……それ、旨そうだな」
「定食、銀貨1枚。豚肉つかってます」
「解った。リエナに運べばいいんだろ?ついでにほかのお客に説明してくる」
ワゴンをセロベルさんに託す。
アーチから覗いてみると、ダストくんとハーバラムさんが席についている。ハーバラムさんがダストくんの左頬に、手巾をおしあてていた。怪我したのかな?
あと……家族づれっぽいのがふた組。傭兵ふうが三組。おおいな。
足りなそうなので、酢豚をつくる。グロッシェさんがお掃除セット(雑巾・箒・ばけつ)をぶら下げた格好で、奥の廊下から顔をのぞかせた。「あの。お手伝い、ありますか」
「助かります。お鍋洗ってもらえますか?」
グロッシェさんの協力で、酢豚や温サラダを量産できた。スープは沢山つくっていたから問題ない。
グロッシェさんは、戸棚の奥から大きなお鍋をひっぱりだして、つかえる状態にしてくれた。ご飯を大量に炊くのに丁度いい。助かる。
セロベルさんに運んでもらっていると、亢奮した様子のリエナさんがのりこんできた。「ねえ、あれすっごくおいしい。あの調味料で味をつけたのよね」
「はい。セロベルさん、運んでください!」
「わたしも買えばよかったわ。かわった香りだし、真っ黒だし、どうつかうんだろうって思ったの」
「リエナさん、お料理好きなんですね」
「ええ。あらっ」
リエナさんが目を瞠った。視線を辿る……。
「あ」会釈した。「お疲れさまです。ひきとるので、出してもらえますか?」
ミスラ商会のひとだ。……増えてる。女性と髪と目の色が同じで、180cmくらいの男性。
ふたりが深々と頭を下げた。「お買いあげありがとうございます」
「いえ、売ってくれてありがとうございます。助かります」
きょとんとされた。リエナさんがくすくす笑う。笑い顔が幼い。
首を傾げてから、はっとした。「リエナさん、よかったですね。お醤油買えますよ」
「あなたって面白いわ」
誉められたみたい。喜んでおこう。




