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セロベルさんは、レントの中央付近にあるという、お味噌やお醤油のお店へ行ってくれていたのだ。
醤。お味噌。お醤油。凄い。異世界なのにあるんだ。
お味噌は、大豆のもの、麦のもの、お米のものの三種。
お醤油は、大豆のもの、大豆と麦のもの、麦のものの三種。それに魚醤もある。市場で売っていたものとは違ってしぼっていない。原料は、あみやいわし。
醤は、所謂もろみみそみたいなものだった。匂いが甘い。それと、溜まりもある。
お酢もあった。まろやかな米酢に、もち米からできた黒酢。
「凄いですね! これは何年仕込みですか?」
こちらの勢いに押されたか、女性はたじたじだ。カンペらしい紙の切れ端とにらめっこする。「……三年です」
「うわあ、買います。幾らです?」
「えーと……ここにある分で、銀貨で40枚ですね。高いと感じるかもしれませんが」
「いえいえ安いです」言下に云う。「全部下さい。ほんとは樽ごと買いたいくらいだけど。えっと、大豆のお醤油と米酢はあと三本、麦のお味噌と米のお味噌はもうひとつぼづつ買います。あ、お豆腐も売ってるって聴いたんですけど、それもあるだけ配達お願いできますか? うるかとか、寺納豆とかもあれば」
女性はきょとんとした。
それから、慌てた様子で帳簿をとりだす。大福帳みたいなの。注文を繰り返すと、書きつけていた。
「あ、あり、ありがとうございま」
「高野豆腐ってあります? あ、おからも欲しいな。お店の位置が解れば買いに行くんですけど」
「高野豆腐をご存じなんですね、ございます」
「わあ! じゃあこれ」
財布から貝貨をとりだした。渡す。「さっきの注文にこれで足りますか?」
「こっ……た。足ります、す、すぐに持って参りますので!」
女性が出ていく。リエナさんは唖然。
よし、これで料理の幅がひろがる。おいしい食事でお客さんを呼び込んで、借金を返さなくちゃ。
あれかな。アジア食品店的な。寒天とかのりとかないのだろうか。干し椎茸とか、干しなまことか、干し貝柱とか、干しあわびとか。あったら買う。食べたいから。
時間ができたら押しかけて、買えるだけ買おう。それで、調理して食べる。
そう決意しつつ、天板をオーブンからとりだした。おいしそうに焼けてる。
リエナさんが女性が走り去ったほうをちらっと見た。「貝貨2枚は、払いすぎじゃない?」
「ぜんぜん。沢山持って来てもらいますし、配達料込みで」
「そ、そうなの……」
「あっ」
「な、なあに?」
びくつくリエナさんへ笑みかける。「オムレツのつくりかた、教えますよ」




