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おばさんは小さく会釈して、はずかしそうに裏口から出ていった。ありがとうございますと云ったのだけれど、聴こえたろうか?
少しして、表からナジさん、シアナンさん、名前の解らないおじさんがはいってきた。車座になる。短くお祈りして、お茶が始まった。
すっきりした飲み口のお茶だった。クッキーは、もらったものと同じ。薬草臭くて、食べてみると甘くてぴりっとする。おいしい。
おじさんの名前が判明した。ラトさん。ラトさん、ナジさん、シアナンさんは「長老」らしい。
「長老」というのは、結婚していて、子どもが居て、子どもが「御山」へ勉強に行ったことがあるひとをさす。
ぽかんと大口をあけて聴いていたら、ラトさんは豪快に笑った。「そうかそうか、坊やにゃむつかしかったな」
「ラト」
「シアナン、説明してやれよ」
シアナンさんはラトさんをちょっと睨んでから、懐からなにやら取り出し、ひろげた。
ごわごわした紙だ。羊皮紙、かな。それに、茶色一色で、地図らしいものが描いてある。
シアナンさんが向きを変えた。……「どらく?」
文字は読めた。ナジさんの云っていたのは、やはり地名だった。
シアナンさんがほっと息を吐いた。
「文字は読めるのか」
「……いちおう読めるみたいです」
「読めるみたいはいいな」
ラトさんがまた笑った。
地図へ目を落とす。
縦長だった。そういう地形なのだろうか? 地名が書き込んであるのは上半分だけだ。国は、大きくみっつ。
上のほうは、「ディファーズ神聖公国」。大きめ。間に小さい国が幾つかあって、右に、その三分の二くらいの領土の「シアイル帝国」。左には一番広い、「ロア連邦共和国」。
それと、どこの領土でもないらしい「御山」と「裾野」。御山が中心で、ロア、シアイル、ディファーズがはなびら、裾野が太くて短い茎、という感じの配置だ。
地図の下半分にはただ一言。「荒れ地」。
「ん?」
首を左へ傾けた。地図には上下左右に東西南北が書いてある。さらに、最上部とロアのさらに左は海があるらしい。シアイルの右側はよく解らないのか空白。
これ……この地図、西が上だ。
つまり、ディファーズがあるのは西。ロアは中央から南。シアイルは西から北にかけて。まあ、この地図通りなら、裾野まで全部西にはいるのだろうが。因みにドラクは、裾野でも御山に近い、大きい街。
「御山は才ある若者らの学びの場だ」
シアナンさんが地図を指でなぞった。「ここには国同士の揉めごとを持ち込んではいけない。どこの出でも平等に学ぶ」
「才ある者だけだがね。うちは妻も御山に行っていたんだ」ナジさんがにこにこ顔でそう云う。「本人は謙遜するが、なかなかに腕のたつ「調剤士」だよ」
首を戻す。棚を見遣った。あの壜はお薬なのか。
ダストくんがぼやいた。
「本がいっぱいあるのはいいけど、成績が良くないと触らせてもくれないんだぜ。シアイルのウラナリビョウタンどもが独占してる」
「それはお前の努力不足だ。母さんはちゃんと勉強していたろう。この村のじゅうたんが色鮮やかなのは母さんのおかげなんだぞ」
「適職が「戦士」しかないってばかにされたんだよ?」
「「体力強化」が役に立っているからいいじゃないか。それに、能力との兼ね合いが悪くない」




