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セロベルさんはひとしきり笑ったあと、お風呂の話に移る。
「お前の云う通り、住み込みで、食事つきにすれば、月に銀貨130枚くらいに抑えられるだろう。それがふたりだから」
「貝貨1枚と銀貨32枚が必要ですね。お部屋は? 足ります?」
「客室をつかわせる」
そう云えば宿屋だった。部屋数は多いのだ。
氾濫士ひとり、焦熱士ひとり、給仕さんがひとり、料理人ひとり。とりあえずの目標は四人か。
「今夜、警邏隊の仕事の前に、口入れ屋に行ってさがしとく。なんか条件はあるか? 男はいやだとか」
首を傾げた。何故?「いえ、別に」
「そうか。心配しなくても、お前の部屋には近付かせないようにするから」
??
なんかよく解らんが、まあいいや。頷いておいた。
ご飯を食べ終え、ローストビーフをオーブンから出した。セロベルさんにうすく切ってもらう。割りと器用なひとだな。
クッキーを焼く。天板は、グロッシェさんが一旦全部洗ってくれた。ぴかぴかだ。
生地を並べて天板をオーブンへ滑りこませ、切ってもらったローストビーフを収納する。セロベルさんは目を瞬く。「収納空間のつかいかた、雑だな。なにがはいってるか解らなくなったりしねえの?」
「だいじょぶですよ。こっちはこのくらいの厚みに切って」
「……ああ」
焼けたクッキーをとりだして、クーラへ置く。次の生地を並べてオーブンへいれる。焼けたものをとりだす。その繰り返しだ。
粗熱のとれたクッキーを収納空間へいれた。いちまいつまみ食い。うん、おいしい。ドールさんに教えてもらったスパイスいりのやつ。
スパイスケーキもつくろうかな? バターも生クリームもないから困るんだよねえ。
「セロベルさん、牛乳とか山羊の乳ってどこで買えるの」
「牛乳? チーズでもつくるのか」
「バターと生クリームが必要だから」
「牛乳って、……南のほうに店はあるらしいけど」
あ、これ知らないな。
グロッシェさんが天板を乾かしつつ教えてくれた。「主人は、近くの村まで行って、買い付けていましたよ。定期的に届けてもらう約束で……」
「それってどこですか? 行ってこなきゃ」
「そんなに大切なもんなのか」
「大切です」
天板をオーブンからとりだし、別の天板をいれる。「お菓子をつくるために。ないなら、豆乳でもいいですけれど」
「トウニュウ?」
セロベルさんはきょとんとした。ないのかなあ。胡麻豆腐つくりたいんだけど。
「お豆腐とか、お味噌とか……?」
期待せずに訊いてみると、意外な答えが返ってくる。
「それなら中央辺りに店があるぞ。シアイルのものだろ?」




