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グロッシェさん用は、お肉を減らして、ふかしたじゃがいもをお皿へのせておく。俺もじゃがいもくおう。
ふたりがふたりやってきた。おひるごはんだ。
ふたりともきちんと(多分)食前の祈りをささげていた。低声なので、なにを云っているかは解らない。そういえばミューくん達、お茶の前にお祈りしてたっけ。
トマトソースの具合がいいので、収納空間へ仕舞いこんだ。ウスターソースはもう少し煮込みたい。市場で生で食べられる甘いバナナを売っていたので、それも潰していれている。たまねぎのやつよりもったりして扱いやすくなるのだ。
席について、ご飯を食べる。あっトマトソース旨い。塩加減ぴったり。味見しなくても匂いで味が解るのは特技だ。とうもろこしのスープもおいしいー。パンひたしちゃお。
グロッシェさんは相変わらずフードを外さないが、耳をひょこひょこさせた。ありがとうございますと云う声がか細い。
「マオ、さっきの話だけどな」
セロベルさんがナイフとフォークを手にして云った。
「はい」
「それより前に、お前の給金。もう少し上げたい」
「え?」
「ひとりであれだけ料理するの、大変だったろ。親父だって、料理人をふたり雇って、作業は分担してた」
そうなのか。
食堂ひろいものな。テーブル沢山だし、満席になったらひとりでは厳しい。作業台も、三・四人並んで作業できそうなひろさだ。
セロベルさんはお肉を器用に切る。
「昨夜の稼ぎがあるし、お前のいうとおり、食堂はやっていけるって解った。傭兵は、警邏隊の仕事だけに減らして、給仕は俺がやる。もうひとり給仕を雇えば安定する筈だ。料理人が見付かれば、お前の負担を減らせるだろうけど、なかなか……心当たりがないこともないが、それはちょっと待ってくれ」
「大丈夫です。今日ははじめてで吃驚したけど、慣れれば平気」
収納空間に材料やできあがったものを仕舞っておけるしね。
お昼時の前になにかおなかへいれておけば低血糖にもならなかったろう。明日からはそうする。
グロッシェさんが小さく云った。「料理人は、月に貝貨1枚で雇っていました。マオさんはひとりなので、仕事量は増えていますから、……」
「貝貨2枚でどうだ?」
随分多くなったなあ。でも、えっと。
指折り数え、うーん、と唸る。「貝貨1枚で……かわりにまかない食べ放題にしてもらえません?」
セロベルさんがふきだして笑った。




