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どうしてこんな理不尽な目に合わなければいけないのか?
中傷は酷かった。旅館に対して卑猥な内容のいやがらせメールが来た。旅館は辞めた。
学校でいじめられた時は、なんとか持ちこたえていた。学校から出れば終わるから。でも今度のは違う。誰も信用できない。旅館の従業員じゃないと撮れない写真が出回っていた。
滑舌悪くて何言ってるか解らないと今更叩かれた。別の子役の役を奪ったことにされて、そのひとのファンから殺害予告が届いた。買いものに行こうとしたら酔った男につけられて、こわくて実家に戻った。でも、そっちはもう特定されていたから、引っ越した。
がらんとした部屋で、怯えていた。特定されたらどうしよう、と。
親戚が何人か動いてくれて、二ヶ月もせずに事態は沈静化した。でも、外がこわい。ひとがこわい。だからそのまま引きこもった。買い物は夜か明けがたにこっそり。極力ひとと関わらない。近所に二十四時間営業のドラッグストアがあって、そこにばかり行っていた。
どうしても行きたくなければ配達も頼める。ネット通販もある。だが、家を特定されるほうがこわい。だからこそこそと買いものに行く。そんな状態が一年くらい続いていた。
✕
気分が沈んだ。子どもと遊ぶのは楽しいのだが(謎のルールにのっとった走りまわるだけの遊びなんか最高)、また、子どもの親に怒鳴りこまれたらたまらない。もの凄い剣幕で、それこそ教育に悪そうなことを叫ばれた日には……。
「じゃ、お茶にするか」
ダストくんに引っ張られる。一番近くの家へはいった。「だすとくん、自分で歩けるから」
「ただいま。母さん、客人」
家のなかはいい匂いがした。じゅうたんが敷いてあって、天井からハーブの束が幾つもさがっている。這入って右に簡素なかまど(二口の、日本っぽいやつ)があって、ダストくんに面差しの似たおばさんがお湯を沸かしていた。ダストくんのお母さんだろう。
おばさんは面映ゆそうにして、会釈した。会釈を返す。
「マオ、こっち」
背なかをおされる。クッションが置いてあるスペースへ座らされた。ダストくんはお母さんのお手伝いに行った。
棚があって、壜がずらりと並んでいる。中身は色とりどり。下のほうには水晶?が雑に置かれている。なにか(ちっちゃくて丸いもの)の詰まった麻袋や、刈り取ったばかりらしい草の束もある。
ダストくんがお茶を運んできた。トレーに、陶器のマグが載っていて、なみなみといい香りのお茶がはいっている。トレーにはほかに、お花の形のクッキーものっていた。




