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用件は、と訊いても、セロベルさんは首を捻るだけだ。
「まあ……文句つけたりはしないだろう。多分」
「たぶんて」
「怒ってはないみたいだから」
みたい、なのか。
とまれ、気になるので会うことにした。ご飯を片付け(胃のなかへ)、お皿洗いお願いしますね、と云いおいて食堂へ向かう。
リエナさんは、隅のテーブルに着いて、軽く俯いていた。
近付いていって声をかける。「リエナさん」
「ああ、ごめんなさい、呼びつけて」
いえ、と頭を振る。
ダストくんとハーバラムさんは居ない。今日はなにかの買い付けに行くらしいから、もう出発したのだろう。
すすめられたので、リエナさんの向かいへ座る。「えっとね」
「はい」
「……」
沈黙。
……リエナさんフリーズしてない?
世界まるごとバグった?
暫く重苦しい沈黙があって、漸くとリエナさんが喋った。
「あの。……ちょっと……訊きたいんだけど」
「はい」
「えーとー……あっ、ごはんおいしかったわっ。あの、たまごの、どうやってつくるのか教えてもらえない?」
……絶対に別の話題持ってきたな。目が泳いでたし、あって云っちゃってるし。
よく解らんが、お叱りという訳ではないみたい。
オムレツのつくりかたは、隠す意味ないので教える。「いいですよ」
「あ、ありがとう」
「今からやってみますか」
「ええ……あ! だめだわ、うちの店の手伝いしなきゃ。あの、今日の夕方か、明日の朝にしてもらえる?」
いいですよと応じる。リエナさんは、ありがとうと云って、あしばやに出て行った。
なんだったんだろ? わからんなあ。
眠たい。寝たい。
セロベルさんも欠伸をしていたが、店番は必要だ。交代で一時間づつ仮眠をとることになった。先に俺が寝る。
用を足してから、部屋まで戻って、ざっと歯を磨いた。洗面台はないが、すみっこに木桶が置いてある。
清潔な服にかえてからベッドに横になった。洗濯もしなきゃ……。
寝つきは呆れられるほどいい。数少ない長所だ。
目が覚めて上体を起こした。
ベッドを降りて、お水を飲み、伸びをして、廊下へ出た。下の階へ行く。
セロベルさんはカウンタへ突っ伏して寝ていた。
近寄る。
「えい」
「うおう!?」
髪を引っ張ると飛び起きた。「なにっ……あ、ごめん」
「ほんとに。お客さん来たらどうするんです」
「悪いって。……ああ、交代?」
ねてたくせにーとも云えない。店番を交代した。
そろそろお昼時だろう。ライティエさんとメイラさんが来てくれないかな。




