156
扉は閉まっていたが、ごめんくださいと声をかけるとすぐに開いた。
開けたのはサローちゃんで、明らかに寝起きだ。じろりと睨みつけられたが、すぐに表情がなくなる。「はいって」
「し、しつれいします」
腕を引っ張られた。たたらを踏む。
お店へ這入ると、サローちゃんは灯を点し、カウンタの奥へ駈けこむ。「起きな! 薬材が来たよ!」
セロベルさんがぽかんとしている。俺は苦笑い。
サローちゃんは戻ってくると、長椅子の上から毛布を退けた。「座ってて。持ってきたものは?」
どうやら長椅子で寝ていたらしい。暫く座るまい。
持ってきたものが到来花と杣人草、それに思案草だと聴くや、サローちゃんの耳がぱたっと動いた。再び奥へ引っ込む。
「せいろ用意! あんたは砥石用意して。杣人草は刃こぼれするからひと束刻んだら研ぐの。到来花担当はこっち! 布はそっちの目が粗いやつだってば!」
そのあともなにやら指示を飛ばしてから、ばけつを手に出てきた。「これに、到来花」
「はい」
値段交渉もなにもない。ばけつの上に収納空間の口を開き、到来花を注いだ。サローちゃんの耳がぐるぐる動く。
ばけつがいっぱいになると、サローちゃんは両手でそれを抱えて奥へと向かう。「お茶淹れさせるから、くつろいでて」
返事をする間はなかった。
屋内で、あたたかい。マントは脱いだ。とりあえず椅子に腰かける。ぬくもりはもうないのでほっとした。「セロベルさんもどうぞ」
隣を示す。セロベルさんは戸惑い顔でそこへ座った。
「マオ、思案草って?」
「ああ、見付けたんですよ。おたくの裏庭で。代金は全部渡します」
欠伸が出た。眠い。
セロベルさんは困ったみたいな顔をしている。「お前さ……」
「はい」
「……どうして、俺を助けてくれるんだ? 思案草っつったら高いだろう。隠れて売りゃいいのに」
それはばれた時がこわい気がする。第一、四月の雨亭の裏庭にあったんだから、四月の雨亭に帰属するのでは。
ああ眠いな。レントへ戻ってほっとしたらしい。魔物が出るかも、という緊張が、自覚はなかったがあったのだ。
「それに、お前、母さんにも平然としてるし、耳持ちに不躾な態度取られても怒らねえし」
セロベルさんが喋っていることが、あまり頭にはいってこない。だって、巨大なやすでとか、ちょうぜつ長生きなでっかいとかげとか、熊がひいてる馬車とか、羽が生えてる人間に獣っぽい耳の人間も見たし、だったらマーモットっぽいひとくらいねえ。サローちゃんはあれがデフォルトだろうし仕方ない。こっちは薬材買いとってもらう訳だからね。
次のセロベルさんの言葉で欠伸が停まった。
「お前もけものまがい好きか?」




