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お水は頻繁に、サッディレくんや、リエナさん、グロッシェさんにもらっている。マイファレット嬢や傭兵達も、俺が頼むとこだわりなくお水を出してくれる。たまにだけど、市場でお水を売っている氾濫士も居て、俺は40l銀貨1枚で売っているのを何度か買った。
エウゼくんが俺の収納空間を勝手に開けた時に比べて、お水の量は相当増えているのだ。詰まり、お水が出てくる勢いも、桁が違う。
悲鳴らしきものが聴こえたような、聴こえなかったような。まあどっちでもいいや。アフィテルディはもんどりうって外へ転がっていった。俺は収納空間を閉じて、振り返る。「セロベルさんごめん、床が濡れちゃった」
セロベルさんは口を開け、閉じ、開ける。
「いや。別に、大丈夫だ」
「よかったー」扉を閉めた。「じゃあ、俺お菓子つくらなきゃなので」
あしどり軽く、厨房へ戻った。あんなん人間じゃないからあれくらいの扱いでいいんだよ。俺は腹が立っているのだ。大体、あの量の貝貨を一週間もせずにつかいきるかね?
サキくんとハーヴィくんは居なくなっている。ハーヴィくんが、あの男の声で怯えてしまったのだろう。相当嫌っているみたいだったし。……多分、私娼として働かせるってのは、あの男が云いだしたんじゃないのかな。そう云うのくわしそうだったから。ハーヴィくんのお姉さんは、あいつの云うなりなのだろう。
胃がむかむかしてきた。吐きそう。あいつ、二度と顔も見たくない。
「マオ」
セロベルさんが追ってきた。俺はエプロンを着け、手を洗っている。「……はい?」
「あいつ、警邏隊にふん縛ってもらった」
仰ぐ。セロベルさんは頷く。「迷惑行為だからな。まあ、注意されて終わりだろう。酔っ払ってるみたいだったから」
「……そうですか」
「お前、ちゃんと考えて行動しろよ。目をつけられるぜ」
「はあ。すみません。腹が立ったので」
手を拭う。注意で無罪放免か。ハーヴィくんが、誰の指示でもなく自分で私娼をやっていたと云っているから、どうしようもないのだ。家族がハーヴィくんに会いたがっても、本来なら追い返せない。ハーヴィくんが怯えているから、ハーヴィくんが会いたがっていません、でなら追い返せるけど。
どうしようかなほんとに。ひきつぶしてやりたい。
「俺が目をつけられるくらいはいいですよ」
「よくねえよ……」
「じゃあ、ハーヴィくんはどうなるんですか? 私娼やれって云いだしたの、多分あいつですよ」
セロベルさんは唸る。ハーヴィくんに私娼をさせていたのが誰かについては、俺と同意見のようだ。ハーヴィくんへ直に命じていたのはお姉さんだろうが、発案者はあいつ。お金がもっと欲しいから、弟に稼げる仕事をさせたらどうだ、みたいに、誘導したんだろう。
「……とにかく、今のところ心配はない。警邏隊がハーヴィの後見人になってる。実の姉でもその夫でも、自由にはできない。でも、それは今の話だぜ」
「俺は断固、ハーヴィくんは返しません。ハーヴィくんに危害は加えないと証人をたてて誓うくらいするなら別ですけど」
まあ、そんなことするくらいなら、初めから私娼なんてさせないと思うけれどね。




