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厨房へ這入る。今日のお茶は、リェンくんの旦那さんの商会から買ったペカンをつかった、ペカンパイ。ツァリアスさんとリエナさんで焼いているところに参戦した。アーフィネルくんのことは、忙しい時間が過ぎたらみんなに話そう。
ひたすらたまごを割ってボウルへいれていると、食堂から怒号が聴こえてきた。やれやれ、案外はやいな。
俺はエプロンを脱いで収納し、お皿を握りしめてかたまっているハーヴィくんを、サキくんへ押しつける。「サキくん、この子お願い。落ち着かなかったらヨーくんに。多分お部屋に居る」
サキくんは余計なことは訊かず、ハーヴィくんを抱き寄せてはいと云った。俺は停めようとするグエンくんとレンウィくんを無視し、アーチを潜る。
食堂は静かだった。カウンタに居る筈のソルちゃんとコーラちゃんが、食堂のまんなか辺りに居て、シャノさんとリューさんをせなかに庇っている。庇われているふたりはあおくなって、小さく震えていた。ふたりとも能力値は平均を大きく下まわる。荒事は得意じゃない。
俺は体力のかわりに魔力があって、ついでに特殊能力や冒瀆魔法がある。大丈夫だ。
セロベルさんへ近付いていった。セロベルさんは、前庭側の出入り口寄りに居て、剣の柄へ手を遣っている。セロベルさんが鋭く睨んでいるのは、開いた扉のすぐ前に立っている、ハーヴィくんの姉婿、アフィテルディ・ターンスタルだ。
セロベルさんは振り返りもしない。「マオ、ひっこんでろ」
「この宿はどれだけ娼妓を雇ってるんだ?宿泊代に娼妓代は含まれるのか?」
アフィテルディは嘲る。俺はそれをじっと見ていた。もうお金が尽きたのか。あればあるだけつかって、なくなったら妻とその弟に無心する。そういうタイプだ。ヒモと云うのもはばかられるな。なんだろう……なんと云っても、既存の言葉に失礼な気がする。
こいつは妻の弟を餓死させるところだった。
こいつは人間じゃない。
「客じゃないならおひきとりください」
セロベルさんが云った。アフィテルディは高く笑う。「慥かに客じゃないな。俺は義理の弟をひきとりに来た。あいつは不良だが、こんないかがわしい宿に預けるのは流石に気が引ける。そういやあこの辺りには男の娼妓は居ないのが普通じゃなかったか?となるとここは私娼窟だな。御山へ訴えてもいいんだぜ」
業務妨害と、名誉毀損だな。
セロベルさんがなにか云おうとしたが、その前に俺がアフィテルディの前へ出た。こいつに冒瀆魔法は必要ない。魔力の無駄だ。
俺はエウゼくんに感謝して、宙に収納空間の口を開き、ごみを洗い流す為にお水を出した。




