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 ヤイルさんとの接点はなかったが、進級したときに科が同じになった。その段階でヤイルさんにお付き合いを申し込まれ、グロッシェさんは応じた。

 下山の直前になって、ヤイルさんに結婚を申し込まれた。グロッシェさんは始め冗談だと思ったらしい。獣人であるために親に捨てられたのに、それと好き好んで縁づくなんて、と。

 ヤイルさんは引かなかった。グロッシェさんも、ヤイルさんが好きだったから、結局は受けいれた。

 でも、ヤイルさんの家族も、親戚も、結婚を認めなかった。

 グロッシェさんは身をひこうとしたが、ヤイルさんの説得で、お姑さんだけは味方に付いてくれた。お姑さんは家族内でかなりの権力を持っていたようで、ふたりは無事に結婚。グロッシェさんは表には出ず、従業員からも隠れるようにして、部屋の準備や庭の整備を引き受け、それがきっかけでお舅さんにも認められた。

「清掃人は、宿の仕事に向いていたんです」

 清掃人って、そのまんまの意味みたい。たしかに向いてる。


 すぐにセロベルさんも生まれ、ヤイルさんの両親は大喜びした。

 セロベルさんに獣のような耳がついていても気にせず、獣人の嫁をもらったからだと云ってきた親族と絶縁した。証人を呼んで絶縁状をつくるほどの徹底ぶりだった。そうしないと、もしもの時にここの土地も建物もとられてしまうから、と。

 ヤイルさんの両親は、セロベルさんが小さい頃に相次いで亡くなった。

 従業員が居たし、セロベルさんも手伝いをして、なんとかなった。四月の雨亭は、この辺りで一番人気の宿だったらしい。セロベルさんが入山して、二・三年までは。


「あまりよく覚えていなくて。……夫の手が動かなくなったんです。手が痺れたみたい、と云って」

 寒い時期だったので、かじかんでいるのかなと、ヤイルさんは楽天的だった。でもグロッシェさんは、気になったから、「医師」に診てもらったらとすすめた。

「夫は、そうだね、と云って。でも、忙しかったので……数日後に医師に診てもらいました。なんだか、難しい病だ、と。でも、根気よく治療すればよくなると云われたんです」

 医師の紹介で、癒し手の許へ行った。その段ではヤイルさんの手は感覚がなくなり、動きもぎこちなくなっていて、普段の生活に支障が出ていた。けれど、癒し手に恢復魔法をかけてもらったら、感覚が戻った。

「よかった、簡単に治るんだって。……でも、ふつかたって、夫の手はまた、感覚をなくしました」


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こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
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