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お客さんが帰った後の食堂に、四月の雨亭の従業員、ベッツィさん以外全員、それからミューくんとサキくんが集まっている。ハーヴィくんは、叫び声のショックが酷かったみたいで、ミューくんが燕息をかけて部屋へ下がらせた。
俺は給仕五人衆と同じテーブルへついている。ツァリアスさんも同じテーブルだ。隣のテーブルには家政職組と、経理のふたり、コーラちゃん。反対隣はミューくんサキくんと、サッディレくん夫婦。俺のテーブルに向かい合う位置のテーブルに、セロベルさん夫婦と、リータちゃん。
リータちゃんは泣き腫らした目にまっかになった鼻で、時折ぐすぐすと洟をすすった。手巾で頻繁に口許をおさえている。
セロベルさんが云った。「警邏隊に問い合わせたが、アーフィネルは東門から出てはいない。だから、まだレント内に居る筈だ」
みんな、なにも云わない。リータちゃんが洟をすする音がかすかに響いた。
「当てものの、なに考えてるんだ?」リューさんが絞り出すように云った。「あいつはちゃんと家族が居るのに」
「よく解らんが、顔役に渡した貝貨は100枚近かったらしい。相手は相当のお大尽だ」
って、ことは、レニルヴァさんではない。そんなには持っていなかったもの。
ノックの音がした。セロベルさんが扉へ近付いて、開ける。戸口にはシアーくんが立っていた。あの後、シアーくんも具合が悪くなって、宿泊棟で休んでもらっていたのだ。「シアーくん」
「あの。すみません、へや、かしてもらって」
辿々しく喋るのを、セロベルさんは優しく腕をとって、食堂へいれる。シアーくんは俺達のテーブルへついた。セロベルさんが云う。
「シアー、くわしい情況を話してもらえるか」
「はい……」
シアーくんは、アパートみたいなところで、アーフィネルくんのふたつ隣の部屋に住んでいるらしい。今日のお昼頃、アーフィネルくんをご飯に誘おうと部屋を出ると、アーフィネルくんが上等な身形の男性と立ち話していた。今まで見たこともない男性で、格好も、娼妓を買いに来るにしてはめかしこんでいたそう。
シアーくんは扉へ隠れるみたいにして様子をうかがっていた。娼妓にいれあげているひとの家族やその使用人が怒鳴り込んでくることはない話ではない。それだったら警邏隊を呼ぼうと身構えていたのだが、どうもそういった雰囲気ではなく、寧ろ男性はアーフィネルくんに終始丁寧な態度で、アーフィネルくんは戸惑い顔だった。
男性はアーフィネルくんへぺこぺこ頭を下げ、居なくなった。シアーくんは部屋を出て、アーフィネルくんへ声をかけた。アーフィネル、なんか拙いんだったら警邏隊呼んでくるよ、と。
アーフィネルくんは困惑した様子で、首を捻りながら、ううん、と答えた。ちょっと出掛けることになったから、と。




