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ストラグさんが来たのは夕食の時間の少し前で、ティーくんのお店の開店準備が整ったという報せだった。見に行きたいのだが、時間が時間だし、ティーくんと相談して明日見に行くことになった。ちなみに、私兵に関しては、ストラグさん推薦のひとを四人雇って、二交代で詰めてもらうことになっている。万全だ。
ご飯どうぞと誘うと、ストラグさんはにっこりした。「部下達を誘っても?」
勿論、と俺はにっこりする。
夕食の時間、食堂からリータちゃんの叫び声がした。
厨房に居たほぼ全員がそちらを向いた。またしても考えたくもない諸々が脳裏を過り、ぼんやり牛肉を焼いていた俺もだ。ハーヴィくんは叫び声がこわかったみたいで、洗いかけの食器を放り出し、泡だらけの手で両耳を塞いでいる。リータちゃんは、セロベルさんに呼ばれて、さっき食堂へ行った筈だ。なんだったっけ。慥か、知り合いが来てて、呼んでる、とか。
「ミュー!」
走ってきたセロベルさんがアーチの下で喚いた。「リータが倒れた! 治療してくれ!」
ミューくんは患者が居るとひとがかわる。険しい表情で走っていった。俺も追いかける。リータちゃんが倒れた?
食堂は静まりかえっていた。俺の心臓はどんどんと高く打っている。ミューくんが、前庭への出入り口付近の床に倒れたリータちゃんの傍へ両膝をついて、その様子を見、手をとって恢復魔法をかける。リータちゃんは身動ぎしたが、目は開けない。
ミューくんは傍らに立つセロベルさんを仰いだ。「大丈夫です。部屋で寝かせてあげてください」
「ああ……リエナ」
俺と同じく厨房を駈け出してきていたリエナさんが、頷いてリータちゃんの体を抱え上げ、出て行った。ミューくんがついていく。セロベルさんは、髪の短い男の子の腕をとって、こちらへ引っ張ってくる。そうしながら、お客さんに騒ぎの詫びをし、カウンタで茫然としているソルちゃんとコーラちゃんに、お詫びにお菓子を配るよう指示する。
俺は後退って厨房へ戻る。セロベルさんは、……あ。
「この間の」
「……マオ」
シアーくんだ。顔は強張って、あおざめている。セロベルさんがシアーくんを椅子に座らせた。
「ツァリアス、こいつにあったかいスープ」
「はい」
ツァリアスさんがスープの用意を始める。俺はテーブルへ駈け寄った。「シアーくん、どうしたの?」
「……アーフィネルのこと、テレイタに伝えに」
あ……そっか。縄張りが同じか、少なくともとても近いから、リータちゃんのことも知ってるんだ。でも……アーフィネルのこと? って、なに。
シアーくんは小さく震えていた。下睫毛に涙がのり、ぽろっとこぼれる。
「あいつ、さっき、顔役のとこへ。貝貨を山程置いてった。誰かに落籍かされたんだ。馬車にのって居なくなっちゃった」




