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セロベルさんは泣きやまないし、ダストくんは腰の辺りを締め上げられて苦しそうだし、ハーバラムさんはむすっとしているし、いたたまれないので厨房へ逃げた。お茶いれてきまーす、と云って。
ま、御山のお膝元だし、入山経験者が居てもおかしくはないか。セロベルさんがダストくんと知りあいだとは思わなかったけど。
戸棚からマグを取り出し、収納空間から出したお水でかなり丁寧にお茶をいれ、トレイへのせて戻った。
……ダストくんが椅子に座って彫像みたいになってる。隣のセロベルさんはダストくんにぎゅっと抱きついて、猫にまたたび状態。ハーバラムさんはその反対に座って、何故だかにこにこしている。
「だすとおおう、お前やっぱり真面目だなあ、ちゃんと鍛錬してて偉いぞおお」
「アリガトウゴザイマス」
「ダスト坊御山でもいい子だったんだねえ」
ダストくんはぶんぶん頭を振った。セロベルさんはダストくんへ寄りかかる。なんかぐにゃぐにゃしてる。
お茶を配った。「お茶どうぞ」
「あらーありがとうマオ。いい香りだねえ。ねえ、ダスト坊の御山での話、面白いよ」
「せっ、セリィさんお茶きたよ! 一旦はなれようぜ!」
「やだあ」
セロベルさんの耳がぱたぱたした。ダストくんは引きつった笑顔。
そういえばダストくん、犬も猫もこわがるんだった。セロベルさんのは、あれはなに耳? ……ダストくんからしたらなに耳でも一緒かあ。
ハーバラムさんの隣へ座る。耳打ちした。「だいじょうぶですかね?」
「耳持ちはああいうひと多いから。ダスト坊の匂いが好きなんだろ」
ほう。フェロモン的な?
セロベルさんはちょっとすると多少冷静さを取り戻し、ダストくんをやっと放した。目許を拭ってから、マグを両手で持ってお茶をすすっている。「はあー、ダストのおかげで元気出た」
「セリィさんて……」
ダストくんは呆れ顔でセロベルさんを見、ついと目を逸らす。
「下山してからこっち、友達とも教え子とも縁が切れちまってさ。なかでもお前は一番真面目で鍛えがいがあったし、気になってたんだ」
セロベルさんは、こころなし毛艶もよく見える。ぴょこぴょこと耳が動いた。
「ちゃんと鍛錬してて、偉いぞ」
セロベルさんに頭を撫でられ、ダストくんはすこし、嬉しそうにした。が、すぐに目を伏せて暗い表情になる。「……下山してたなんて。セリィさんはずっと、御山に居ると思ってたよ」




