126
傭兵仕事は儲かるのかもしれないが、あの調子ではセロベルさんが体を壊すのはそう遠い話ではない気がする。というか、かなり痩せていたし、もう体を壊している可能性はある。どうにかならないものかな?
前庭を抜けた。
食堂に這入ると、セロベルさんがカウンタに両肘をついているのが見えた。思案げだ。
物音に我に返ったか、セロベルさんがこちらを向く。「ああ、マオ……ダストっ!?」
がたんと椅子を蹴倒してセロベルさんが立ち上がった。おっきいなあ。
そのままカウンタの向こうから出てくる。セロベルさんは左右違う色の目に、同じように涙を溜めていた。
「だーすーとーおおお!」
「ふぎゃっ」
ダストくんが熱烈に抱きしめられた。なにこれ?
セロベルさんは泣き出してしまって、ダストくんがそれを必死で宥め、近くの椅子へ座らせる。ハーバラムさんは口あんぐり。俺も似たようなものだ。
セロベルさんはダストくんへしがみついて脇腹へ鼻先を埋め、ぐすぐすと泣いている。ダストくんは片腕を挙げた格好で凍結。「ダストおおお、久し振りだなあこのやろううう!」
「せ、せろべるさん、なきやんでください」
「なんだよさみしいぞ! 俺とお前のなかだろお?! 前みたいにせりぃってよべよばかあ」
ダストくん、すっごく絡まれてる。汗をかいているなあ。
「ダスト坊……」ハーバラムさんが低ーい声を出す。「そのひとは?」
「あ、えっと、御山で知り合って。セロベルさん。先輩。戦士科で補助の指導員やってて」
御山で補助とはいえ指導員できるくらい優秀なのか、セロベルさん。すげー。
しかし、セロベルさんは入山経験者とは思えない涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、ダストくんへくってかかった。「なんだよつめたいなだすと! おれはおまえにっ、は、はじめて……あとせりぃってよべばかあ!」
「呼ぶから不穏当な発言やめてセリィさん」
ダストくんの声が震えていた。
ふーん、とハーバラムさんがひんやり云う。「はじめて……?」
「おれはだすとではじめて……はじめて生徒にまけたんだあああ」
セロベルさんはダストくんへますますしがみつく。「立派になったなダストお、こんな胴回りも太くなって! 強くなったんだろ! セリィせんせは鼻が高いです!」
「あーもううややっこしいんだよおセリィさんはあ!」
「いつものダストだあああだいすきいいいいいいい」
ダストくんってあれなの? 歳上の男性キラーなの?
それって俺も射程圏内じゃん。は、は、は。




