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軽く会釈した。フォージくんは表情を変えず、すたすたとやってくる。
目の前で停まった。185cmくらい、ちょっと痩せ型。ピンクっぽい灰色というか、濁ったパステルピンクというか……の髪は腰くらいまである。髪というより、羽毛みたいな質感だ。羊の耳みたいなアホ毛が風に揺れる。白い羽が生えているみたいだし、ファンタジーによく出てくる獣人ってやつ?
服は、若草色のチュニックと、らくだ色のずぼん、茶色いブーツ、白いローブ。着こなしは少々……だらしない。
「……?」
フォージくんは不思議そうに首を傾げた。顔を近づけてくる。虹彩が人間とは違う形をしている。縦長の、角のまるい四角。
顔立ちは整っていて、肌が滑らかだった。
「あの……えと……ありがとうございます」
とりあえずお礼を云ってみた。フォージくんは眠そうな目をして、こくんと頷くと、ローブのひとのところへ戻ってゆく。なんだったんだろう。
馬車から出てきた男の子達が、怯え切ったトゥアフェーノをなだめたり、馬車を起こしたりしている。手伝ったほうがいいみたいだ。
馬車をなんとかつかえる状態にするのを手伝っている間に、ナジさんの治療が終わった。ずぼんがずたずたに裂けているから、かなり酷い怪我だったろうに、傷そのものは跡形もない。鳥みたいな鳴き声はトゥアフェーノのものだった。
フォージくんの様子については、再び馬車に乗り込んだあとに知って、冷や汗をかいた。
「ぜんなるたましい?」
ナジさんが頷く。御者はダストくんにかわっている。馬車はゆっくり進んでいた。
馬車には、黒服のお姉さんと、長髪の青年も乗っている。ローブの青年とフォージくんもついてきているらしい。飛んで。
お姉さんは「還元士」。あのあと、虫の死骸を「還元」していた。持っている杖を振りながら還元と云ったら、虫の死骸がほわほわした光に分裂したのだ。一部は宙を漂っていた。
長髪の青年は「癒し手」。恢復魔法をつかえる。今は馬車に揺られて眠っている。ナジさんだけでなく、ヤームさんやシアナンさんも治療して、疲れたのだろうとはセムくんの弁。
ナジさんがちらっと馬車のうしろを見た。「白に黒い刺繍のローブは、祇畏士の証だ。善なる魂を持っていないと成れない、とても名誉な職だよ」
「へえー」
「羽持ちの子も善なる魂を持っているのだろうな。でないと魔を滅却できない」
ナジさんは力強く云う。「天が賜した特別な力だ」
「魔を消せるんですか?」
「ああ。それに、魔の性質の者を見抜く。悪しき魂の持ち主を炙りだせるんだよ」
ぎくっとした。
ナジさんは噛んで含めるように、丁寧に解説してくれる。
「人間というものは魔にとりつかれないが、まれに、魂自体が魔の者がいる。悪しき魂と云ってね、普通の方法じゃあ解らない。魔というのは狡猾なんだ」
「はあ……」
「祇畏士はそれを感知できる。そして、悪しき魂でも滅却できるんだ」
やっべええええええ危うく滅却されるとこだったあああああせーーーーふ!
祇畏(なぜか一発変換できない)士は夢に出てきた時は魔祓師でした。
滅却は名前がついてなかったのでそれらしいのにしましたが、変更するかも。




