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鳥の鳴き声みたいなのが響く。ヤームさんが外へ出ようとした。外から声がする。「魔物だ! 虫だ!」
男の子達がそれぞれ得物(短剣とか剣とか、置いてあった)を取り上げ、片膝立ちになる。
「お前たちはマオをまもりなさい!」ヤームさんが飛び出していった。
音が止む。ダストくんが戸のほうへと移動する。「ダスト」
「父さんがやられるかもしれない」
セムくんが呼び止めてもダストくんはとまらなかった。これってまずいのでは……。
どんと衝撃があって馬車が倒れた。悲鳴が上がる。あのやすでこんなに力があるの?まじで?
運よく一番上になっていた。えっと、どうしよう。冒涜魔法?
外から悲鳴が聴こえてきた。シアナンさんだ。「ナジ!」
かさこそと、それこそ虫みたいに這って外へ出る。深く考えてはいない。なんか大変らしいから、どうにかしよう、くらい。それでいつも失敗するのだけれど。
虫が居た。大きい。顔がA4の倍くらい。
目が合った。いやな汗がぶわっと出てくる。「マオ逃げろ!」無理。
魔法ってどんなのがあったっけ? メニュー画面でリストみられたけど、覚えてない。
虫がざざざっと滑ってきた。魔王ってさ、魔物に襲われるの? それって魔王と云えるの?
反射的に手が出た。左拳があたる。虫がのけぞった。横に倒れてのたくっている。が、すぐに体勢を整えて飛びかかってきた。なんだよそのジャンプ力。
あ、これ死んだな。無理だわ。
へたり込む。往生際悪く、頭を庇った。捕まって頭からばりばり……と思いきや、衝撃が来ない。
腕を下ろす。目を開ける。ふわふわしたものが見える。鳥? ……髪がふわふわした人間だ。多分。白い羽を背負ってるけど、人間だと思う。
酷い耳鳴りが、一瞬だけした。直後に、紫というか黒というか、のもやが湧きたつ。
灰桃色の髪のひとが振り返った。鳥みたいな赤い目をした、男の子だった。
無言で肩口を引っ掴まれ、立たされる。虫は、ときょろきょろして見れば、でろんと横たわったのが目にはいる。その上にもやがゆらゆらしていた。
白地に黒い刺繍のローブを羽織った青年と、黒っぽい服の女のひとが、傍に立っている。ローブの青年が此方を向いた。「フォージ、やってみなさい」
赤い目の子が頷いてそちらへ行く。
男の子=フォージくん、は、黒紫のもやを掻き混ぜるような動きをした。
「滅却」
途端に、もやがきらきらと飛び散る。
数拍おいてから青年が拍手した。「よくやった。やはりお前は別格だな」
女のひともぱちぱちを手を叩く。フォージくんは小さく頷くだけ。
シアナンさんがやってきた。「マオ、大丈夫か?」
「……あ、はい。ナジさんは?」
「治療中だ」
示されたほうを向けば、ナジさんが座っていた。含羞んだように俯いている。隣に髪の長ーい青年が膝をついて、ナジさんの膝辺りに両手をかざしていた。長髪の青年の両手から、白っぽくてきらきらした光が出ている。治療魔法だろう。
シアナンさんがふにゃっと笑った。「行にゆきあってよかった」
このひと達に助けてもらった……のかな?
振り返る。フォージくんは、ローブのお兄さんに頭を撫でられていた。
鳥の目がこちらを見る。
やっと主要キャラ出てきました、長かった




