連邦共和国にて 4
翌日から、サキは還元士達にくっついて、険しい岩山や、枯れた木ばかりの谷、落ちたら二度とあがってこられないであろう滝の傍など、様々な場所をまわった。還元するものは多岐にわたり、鳥の羽や死んだ小動物まるごとなど、難しいとされる還元もサキはなんとかこなしていった。
父親と喧嘩をしてまでキャズドレッシュに学びに来たのは、還元の力を強める為だ。どうして還元の力を強めたいかといえば、還元士にならなくてすむように、だ。
入山試験で出会ったひとに近付きたいから。
サキは、半年以上たった今でも、そのひとに恋していた。離れたら気持ちが落ち着くかと思ったのに、そんなことはまったくない。寧ろ、会えないのがもどかしく、余計に恋しい。
マオに、強くなる、卑怯はやめると約束した。だから、サキは還元の訓練をしている。還元士にならなくてもいいくらいに還元ができるようになれば、戦士になったって誰も文句は云わないだろう。あのひとにもっと近付くにはそれしかない。あんな、邪魔をするような、卑怯な手口ではなくて……。
一人前に還元ができると認められて、五日たった頃。「友人」用の川岸で服を洗っていると、グラディーが上から顔を覗かせた。
「サキ。客だ」
「客?」
チュニックの水気を切って、ぱたぱた振る。傍の木の枝にひっかけて、斜面を登る。最後はやっぱり手をひいてもらった。
「女」
「名前は?」
「魚」
さかな?
引っ張られて歩いた。グラディーは常に弓矢を携行している。
母だろうかと怯えていたら、なんのことはない。「リオ」
「サキちゃん!」
リオは白いシャツに焦げ茶色のジャンパースカート、麦わら帽子、という、いかにもロアの若い娘、という格好だった。サキは苦笑いする。そういえば、キャズドレッシュのひと達は、ある程度より小さな魚をまとめてリオと呼ぶ。
リオは、サキが父親と喧嘩をして、家出同然でキャズドレッシュへ向かったと聴き、心配になってやってきたらしい。「野蛮なひと達だって聴いていたのに、そうでもないのね。みんなとっても親切だわ」
リオはにこにこしている。悪気なくそんなことを云ってしまうのがリオだ。サキは苦笑する。
広場の端で、切り株に腰掛けて互いの近況を話していると、ハリッジがとんできた。目覚めた時にはもう姿がなかったのだが、集落の外へ出ていたらしい。
ハリッジは食事用の建物の柱を鉈で切りつけた。そのまま鉈を柱へ放置する。
「まただ。南のやつら」
ハリッジが云うと、食事の準備をしていた女性達が一斉に手を停めた。狩りの支度に忙しそうな男性達も、立ち話していた還元士達も、ハリッジへ目を向ける。
還元士達がハリッジを招き寄せた。「ディー、慥かなのか」
「アマラが云った。伝えに来た。客と一緒だ。客だけかもしれない」
「そうか。近いのか?」
「近くない」
その後ハリッジが云ったことは、聴きとれたが意味が解らなかった。キャズドレッシュの言葉でも、サキが今まで一度も聴いたことがないものだ。
還元士達は低声で言葉を交わし、首長が大声を出した。「心配ない。あやつらはばかだ。猿の影に矢を射る。相手をしなくていい」
それを聴くと、女性達は再び手を動かし、男性達は頷き合って狩りへと出て行った。
首長がこちらへやってきた。サキは立ち上がる。リオもだ。
「サキ。お前を信用している。皆がだ。だが出て行ってくれ」
「……どうしてですか」
共通語で訊くと、首長も共通語で云った。「ずっと南に、愚かな者達が居る。水面の月を本物と思っているようなばかどもだ。そやつらは我らに害をなしたことがある。だから我らはずっと見張っている。そやつらが客人を迎えて祭祀を執り行った。我らはその祭祀が嫌いだ。見張りのアマラに拠れば、客人のほうが多い。客人はお前の同胞だ。お前が居るといやがる者がかならず出る。安全を保証できないから、出て行ってくれ」
納得はできないが、理解はできた。部族間の争いは未だに続いているし、最近もキャズドレッシュに火が放たれたりしている。
サキは渋々頷いた。「残念です」
「我らも残念だ」
首長は意外にも、本当に残念そうだった。




