連邦共和国にて 3
井は今でこそ、それに隣接した同じ大きさの建物やなんかもまとめて指すが、かつては湖や泉そのものを示す言葉だった。
キャズドレッシュ含め、先住民族も井での宣言を経て職に就く。だから、井はある。ただし、建物をつくったりすることはなく、そのままだ。詰まり、昔のままの、本当の井が残っている。
森に這入って二時間程。サキの目に、きらきらときらめく水面がうつった。井だ。サキが毎年能力証をとりに行くような、ひとでにぎわう大きな湖ではなく、小さな泉だ。ふたりも姿を写せばいっぱいいっぱいだろう。
井のまわりには椰子が沢山生えている。住民同様、背は低い。かわりに瑞々しく生き生きとして、旺盛に葉を茂らせているのも、キャズドレッシュの住民達に似ていた。彼らは悔やむことがない。だめになった事柄に執着しない。
ハリッジもヴァンデルも、サキからは距離をとって、その辺に生えた手斧草をぷちぷちと摘みとり、口へ含んでいた。手斧草は普通、軽く干してから嚙む嗜好品だが、ここでは生を嚙んでいる。生のほうが亢奮作用が少ないので安全らしいが、たまに料理にはいっていることもあり、その点油断ができない。唯一サキが許容できないキャズドレッシュの文化である。
サキは深呼吸して、椰子の傍に立った。
日が傾く頃に森を出た。ハリッジとヴァンデルは手斧草や、食べられるらしい植物木の実などを抱え、サキもプランテーンをひと房持って帰った。
ダイルは、森に這入る前と同じ場所に立っていて、首長や主立った還元士が何人か来ていた。そのうちのふたりが、サキといれかわりで森へ這入る。
プランテーンをダイルへ渡す。「食事の時間だ」
どうだったか、と訊かれることもない。森に這入っていったふたりが確認するのだろう。
サキは頷いて、食事の為の建物へ向かう。お辞儀や会釈もここの文化ではないので、やることはない。ここに訓練に来ている以上、ここのやりかたに慣れないといけない。手斧草だけはどうにも無理だが。
食事用の建物は、柱と床と屋根だけで、時間が来ると集まって食べる。食事は二回だ。大体、午前十時くらいと、午后五時くらい。
食事の前のお祈りというものも勿論なくて、サキもやらない。食事は単純な、むしプランテーンと野草を炒めたもの、がほとんどで、たまに猪や猿の肉が出る。ほかにもなんなのか解らないものの肉が出ることはあったが、特別おいしい訳ではないものの決してまずくはないので、サキはありがたく食べている。来たばかりの頃はおそるおそるだったが、もう慣れた。
今日はむしプランテーンと野草炒めで、手斧草がはいっていたので、サキはむしプランテーンだけを食べた。手斧草は軽い興奮状態もしくは酩酊状態をひきおこすだけだが、それをきっかけにもっと効果の強いものへ手を出すというのはよく聴く話だ。だからサキはやらない。
森に這入っていった還元士達が戻ってきて、ダイルになにか云った。ダイルがこちらを向く。「村の外へつれていく。明日から」
どうやら合格したようだ。サキは内心ほっとして、頷いた。




