連邦共和国にて 2
昨日までサンワヴェリンだったダイルは、森のすぐ傍に立っていた。ダイルはサキの師匠にあたる還元士で、いつもくすんだ赤のローブを羽織っている、サキより頭ひとつ分小さい、四十代と覚しい女性だ。年齢以外の部分で子どもと大人を分ける文化なので、彼らは自分の正確な年齢を知らない。
ダイルは、杖どころかなにも持たずに還元を行う。サキに限らず、大抵の還元士は、還元士用の杖で還元の力を強めるものだ。それをしない先住民族は凄いと、サキは真実そう思っている。
「椰子の還元は?」
ダイルは前置きもなにもなくそう云った。挨拶や前置きがないのもここの喋りかたの特徴だ。サキは頷く。「できる」
「すべてか」
「葉はやったことがない」
ダイルはこっくり頷いた。
「椰子をすべて還元できる。それが一人前だ」
成程、と、サキはなんとなく察した。ここに来てひと月くらい、ダイル(はじめはセリーリアーバル、次にクダ、ついでサンワヴェリン、そして今はダイルと名のっているこの女性)について還元の訓練をしてきた。
還元は、やればやるほど精度が上がり、還元できるものも増える、とされている。そして、還元士は還元の時、各人なりの想像をしている。
どのような想像をしているかをダイルから聴きながら、還元できるものを片端から還元する。還元できないものについて、観察し、還元できないか試みる。それをひと月くらい、サキはこなしていた。この辺りに魔物が少ないからできる、贅沢な訓練である。裾野なら還元過多で魔物に襲撃されかねない。
椰子は森には沢山あるのだが、今まで課題になったことはなかった。詰まりこれは、試験のようなものだろう。
ダイルはついと森の奥を示す。「椰子が増えた。井のまわりだ。還元してこい」
「……どれくらい?」
どれくらい、と云う言葉はキャズドレッシュにはない。共通語で訊いた。ダイルは頷く。
「可能な限り」
「解った」
サキは深呼吸して、森へ這入る。ハリッジと、いつの間にか来ていたヴァンデルが、数歩離れてついてきた。ヴァンデルは常に棍棒を持っているが、杖代わりにつかっている為、あまりこわくはない。
魔物が少ないといえ、あらわれることはあるし、気性の荒い野生動物もいる。キャズドレッシュは還元士や巡らせる者を重んじる。首長も還元士だ。だからサキをまもる為に、誰かが常に傍にいる。サキはここの住民を怯えさせないように、魔法を成る丈つかわずに過ごしている。戦闘力があるとは思われていない。
森は、サキの知らない植物であふれている。その大半は、杖なしでも還元できるようになった。キャズドレッシュには誉め言葉もないが、見放されなかったからある程度認められてはいるのだろう。
森の奥には井がある。本当の井だ。




